小島 健輔
人格も人生もある現場が動かすアパレル事業
いくらアパレルが過剰供給で販売不振が続いているからと言っても、十連休明け以降の破綻ラッシュは息つく暇もないほどだ。5月29日に民事再生法の適用を申請した株式会社リファクトリィ(J.FERRYを展開)は6月3日付で再生手続きの開始決定を受け、株式会社ラストステージ(RETRO GIRLを展開していた株式会社エムズ)は6月10日付で特別清算の開始決定を受け、M.deuxを展開する名古屋の丸澤屋も6月25日に民事再生法の適用を申請している。7月に入っても株式会社ヰノセント(NÎMESやLA MARINE FRANÇAISEを展開)が特別清算を申請しており、夏の終わりに向けてアパレルの破綻劇はまだまだ続きそうだ。
近年のアパレル事業破綻の多くに共通しているのが、経営的に行き詰まった事業を投資ファンドなど事業再生のプロが引き受け、ファイナンスのスキームを駆使した果てに実務体制が崩壊して顧客や取引先が離反し、壊死してしまうというパターン。はじめに資金を注ぎ込むのは投資を誘い込む呼び水に過ぎず、実務を立て直すわけではなく短期でPLとBSの見た目を取り繕うだけだから、一時は上向いたように見えてもすぐに実態が露呈してしまう。それまでの短期勝負と言ったら、なんだか取り込み詐欺みたいだが、それに近いケースもあるようだ。
大手企業が不振の子会社の立て直しに経営者を送り込む場合も大差なく、短期で見た目を改善しようとスタンドプレイに走り、上から目線の仮説で不用意にメスを入れて体力を消耗させ、現場が長年積み上げてきた努力も水泡に帰してしまう。そんなことを繰り返した挙句、財務的にも組織的にも行き詰まって清算やむなしということになる。
アパレル事業は人が額に汗して稼ぐ泥臭いもので(そう思っていない輩が破綻の引き金を引く)、ファイナンスのマジックやMBA仕込みのスマートな再構築では業績は容易に上向かない。ファイナンスはカンフルになるが、下手な再構築は思わぬ血管を切断して大出血を招きかねない。それだけの実務キャリアがある経営者がやるならともかく、机上の仮説で不用意にメスを入れられてはたまらない。
アパレル事業は勘と度胸の荒技でもスマートな遠隔操作でも上手くは回らない。生産工程から物流や店舗&サイト運営、接客販売まで、全てのアナログなプロセスを熟知して繊細に連携してこそ円滑に回るもので、現場で働く一人一人が人格も人生もあるステークホルダーだという見識を欠いた経営者が動かせるものではない。
そんな当たり前のことが蔑ろにされた挙句、泥沼にはまって喘いでいるのが今日のアパレル業界ではないか。業界の時流や組織力学に流されて本質を見失う経営者が如何に多いか、残念なことだと思う。