上野 君子
新しいコミュニケーションの時代
この写真(先日、仕事場を整理していた時に出てきた)は、2002年のホリデーシーズン、ニューヨークはバーグドルフグッドマンのウィンドゥディスプレイ。ホリデーシーズンだったが、他店のようなクリスマスの演出ではなく、同店らしい知的な演出に目がとまったことを覚えている(ああ、もう18年もNYに行っていない)。
“Re-read the classic”――つまり「古典を再読しよう」といったニュアンスか。
たまたま今、フェイスブックで「7日間ブックカバーチャレンジ」というバトンリレーが人気だ。
曲がりなりにも物書きの端くれとしては、この手の本紹介にはちょっと抵抗があって、最初はけっこう冷めた目で見ていた。
ところが、尊敬する知人からこのバトンが回ってきたとき、私は何の迷いもなく、受けてみようという気になったのだ。何事も人の縁であるとつくづく思う。
これは誰が始めたのか不明だが(おそらく同時多発的発生なのだろう)、目的や方法は以下のようなもの。
◆目的 読書=知の感染でコロナ危機に対応すべく、7日間ブックカバー投稿を通して読書文化の普及に貢献する
◆方法 「好きな本を一日一冊、7日間投稿する」 手順:1本についての説明なしの表紙だけの画像をアップ 手順:2毎日一人のFB友達を招待して、このチャレンジに参加してもらう
これはあくまで基本であって、皆自由に思いのままやっている。
誰もが感じているように、7冊選んで紹介するのはそれほど苦にはならないが、各回1人ずつにバトンをわたすというのが大変。けっこう断られる。この人ぞと思って打診すると、既にやっていたりする。
全く本に興味なさそうな人は指名しないが、それ以上に子育てや仕事で忙しくしているような人も遠慮してしまう。また、その人がいかにも選びそうなものが見えてしまうような人はあまり指名したくない。つまり、この人なら意表をつくような新しい世界を見せてくれるのではないかと期待できる人を探してしまうのだ。
そもそもフェイスブックという媒体がそういうものだが、自分のこういう面を見せたいという自己演出、自己表現がベースにあるから、好き嫌いはあるだろう。
だが、このバトンリレーを通して、普段なかなか連絡がとれない人と連絡がとれたり、その人によって意外な反応を見せたりすることが興味深かった。
紹介されている本そのものより、その裏側で交わされた人と人とのコミュニケーションこそが、このバトンリレーの神髄なのではないかと思っている。本はひとつのツールにすぎない。
現に、着物、アート、多様な趣味と、本以外のバトンリレーも広がっている様子。
いずれにしても、デジタル化が進み、すべてがオンラインで行われるようになっているなかで、このようにアナログな本の表紙を見せ合うという行為はなかなか面白い。
コロナと共に、新しいコミュニケーションの時代へと突入しているようだ。