宮田 理江
革新的マーケッターの顔も 映画『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』が公開 自ら語るキャリアや創作
今なお匿名性を守っているマルタン・マルジェラ氏が声だけとはいえ、自ら出演したドキュメンタリー映画『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』(英語タイトルは『Martin Margiela: In His Own Words』)が2021年9月17日(金)から、渋谷ホワイトシネクイントほかで順次全国公開されます。本人が語る「マルジェラ・ストーリー」は驚きが多く、試写を見ている間、気持ちが盛り上がる瞬間が何度もありました。
徹底した秘密主義を貫いたファッションデザイナーでした。公の場には決して姿を現さず、取材は断り続け、自らの正体を隠し抜きました。ところが、この映画では、マルジェラ氏本人が初めて制作に協力して、たくさんの声を提供しています。顔が写ることはないものの、これまで露出がほぼゼロだったことを思えば、大変な変わりよう。しかも、自らのキャリアや創作について語っています。
この奇跡を可能にしたのは、ドキュメンタリー映画の名手、ライナー・ホルツェマー監督です。同じくファッションデザイナーのドリス・ヴァン・ノッテン氏のドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』も撮っています。『ドリス・ヴァン・ノッテン~』でもデザイナーの自宅での暮らしぶりに迫り、クリエーションの裏側に光を当てました。
◆革新的クリエイターでありながら、マーケッター的な戦略性を併せ持つ
たくさんの逸話が明かされます。たとえば、子どもの頃はバービー人形と女優ブリジット・バルドーが好きだったそうです。こんなプライベートを明かしてもらえるのは、これまでの秘密主義から考えると、驚くばかりです。
デザイナーになってからの出来事を聞くと、マルジェラ氏がクリエイターとしては極めて革新的でありながら、マーケッター的な戦略性を備えていたことが分かります。他のデザイナーが思いつかないようなプロジェクトや切り口を打ち出しますが、後になれば、マルジェラ氏が時代の先を行っていたことが証明されます。
ホテルや美術館、イベントホールなど、ファッションショーは広くて豪華な場所で開催するのが当たり前だった時代に、マルジェラ氏は風変わりな場所で開くアイデアを持ち込みました。モデルも大手事務所所属のトッププロではない人たちを起用。こういった取り組みは今ではほかのブランドでも見かけますが、当時は誰もやろうとしない「ルール破り」のチャレンジでした。
常識や決まり事の逆を行くようなアプローチが相次ぎました。初めてオープンしたショップでは、壁や内装すべて真っ白に。当時のブランドブティックは黒を基調にしたモダンな造りが多かったから、オールホワイトの演出はインパクトが大きく、注目を集めました。ブランドネームの白ステッチに関しても、愛用者のジャーナリストが秘話を語っていました。
◆コンセプトづくり、プロジェクト運営の面でも参考に
本人の言葉から、あらためて感じられるのは、コンセプトづくりに意識を強く向けていたことです。個々のアイテムのデザインが優れていることはもちろんですが、それらのクリエーション全体を束ねるコンセプトをしっかり練り上げる能力の高さが示されています。「マルタン・マルジェラ」というプロジェクトを成り立たせる才能と手腕を改めて実感しました。
オンリーワンのブランドとして、今なお神話的な評価を得ている「マルタン マルジェラ」。これまでもいろいろな分析が語られてきましたが、今回は長く沈黙を守ってきた本人の言葉だけに、決定版と言えます。ファッションにとどまらず、ビジネス全般で参考にできそうな「マルジェラ読み解き本」的な映画です。
『マルジェラ語る“マルタン・マルジェラ”』
2021年9月17日より全国順次公開
監督・脚本・撮影:ライナー・ホルツェマー(『ト゛リス・ウ゛ァン・ノッテン ファフ゛リックと花を愛する男』)
© 2019 Reiner Holzemer Film ‒ RTBF ‒ Aminata Productions
https://www.uplink.co.jp/margiela/
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