宮田 理江

2018 03 Jan

ドリス・ヴァン・ノッテン氏のドキュメンタリー映画に見るプロ意識

巧みなモチーフ使いや布地へのこだわりで知られるファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン(DRIES VAN NOTEN)氏のクリエーションに迫ったドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が2018年1月13日から、日本でも公開されます。創作の裏側を明かすだけではなく、自宅での暮らしぶりやファッションビジネスへの思いなども収められています。

パリコレクションで最も重要視されるまでになった軌跡を、生い立ちや「アントワープ6」時代などの逸話を織り交ぜながらつづっていきます。いわゆる成功物語とは違い、比較的静かなトーンで描かれているのも、ドリスの穏やかな人柄を映しているかのよう。過去の主なコレクションを自ら振り返るパートもあります。

 

自らの創作スタンスを、ドリスは「タイムレス」と言い表しています。目先のトレンドを追わない態度はドリスを特別な存在にしました。そのクリエーションで軸になるのは、彼がこだわり抜いて選ぶテキスタイルです。映画の中では世界中から集められた布地を広いアトリエの床に並べて、巡り歩きながら好みの生地を選ぶ場面が印象的に描かれています。

ディテールの面で特別な思い入れを持っているのは、手仕事の刺繍。以前からインドに刺繍職人の工場を持っていて、丹念な針仕事をデザインの持ち味としています。

 

緊張を強いられる、多忙なデザイナー活動を支えているのは、長年のパートナーと過ごすプライベートな時間のようです。

サブタイトルにもある通り、ドリスの花好きはかなりのもの。自宅にも庭園を持ち、丹精込めて花を慈しんでいます。室内にも季節の花を飾り、その配置にも繊細な心配りを見せています。インテリアにも時間と手間をかけていて、納得できるまで手を抜かない人柄がうかがえます。

 

デザイナーとしての仕事ぶりはそれぞれに個性があるものですが、ドリスの場合はストイックで職人気質。でも、声を荒らげたりはせず、淡々と着実に作品を練り上げていきます。時に修羅場となるバックステージでも、落ち着いていて、しっかりと準備してショーに臨む取り組みにも、ぶれない制作姿勢が感じられます。

長いキャリアをあらためて振り返って分かるのは、早い時期からモチーフミックスを使いこなしていたということです。一般的には難しいと思われがちなレオパード柄とチェック柄といった、複雑な「柄on柄」も組み立てていました。さらに、ゴージャスな刺繍、エレガントなシルエットが装いに深みと気品をもたらします。

 

「使い捨てのファッションは作りたくない」といった意味の言葉を発するドリスは、愛着を持って着続けてもらえるような「スローファッション」を提案しています。アートを愛する気持ちがクリエーションに写し込まれているところも、ドリス流のタイムレスを裏打ちしているようです。

大手のブランド企業に属さず、独立系メゾンの立ち位置を守り続ける気概も語っています。有力ブランドが相次いで巨大ブランドグループの傘下に入る中、自らの創作の自由を保つためにも独立主義を貫く態度には、「ファッションビジネスの成功者」ではなく、「美の職人」であろうとするドリスのすがすがしいまでのプロ意識がにじんでいました。

 

『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
http://dries-movie.com/

2018年1月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野ほか全国順次公開

(c)2016 Reiner Holxemer Film–RTBF–Aminata bvba–BR-ARTE

 

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Written By Rie Miyata 

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