久保 雅裕

2019 30 Oct

サスティナボルドーのセミナーで見えたもの

試飲ランチに供されたワインは白4種、スパークリング1種、ロゼ1種、赤3種、ソーテルヌ1種

ボルドーワイン委員会は、2019年10月25日、東京・青山でサスティナブルをテーマとしたセミナーを開催した。特に「生物多様性の促進・保護」と「気候変動への対策」に絞って、ボルドーの取り組みを紹介した。

近年、研究を進めているのが野生のコウモリだ。害虫のハマキガを捕食することが明らかになり、古い小屋を放置し、巣箱なども設けて、コウモリの定着に力を入れている。

またぶどう畑の畝を土のままにしておかず、カバークロップ(下草)を生やすことで多様な生物の生態系を維持するとともに、CO2の排出削減にも効果を出している。ちなみに2009年から16年の間に温室効果ガス削減量がマイナス9%と成果を上げたそうだ。もっともすべてがカバークロップのおかげではなく、瓶の軽量化も大きく寄与したらしい。

続いて気候変動問題だが、ボルドーの2020~50年代の予想される気温上昇は、3.6℃と見込まれており、収穫の早期化、アルコール度数の上昇、酸味の減少、アロマの変化といった問題が提起されてきた。これらに対しては、剪定日の先延ばしや醸造時の発酵力の低い酵母の使用などの対策を実施している。さらに気候変動に適応した新たな品種の導入も進めており、今年6月には初めてポルトガルのトウリガ・ナシオナルなど7品種をAOC規定に導入することを決めた。実際には2020年から21年にかけて第1回の植え付けが行われる予定だ。但し規定では、アッサンブラージュする場合に10%までしか使用割合が認められておらず、さらに法的規制でラベルへの記載も認められないそうだ。

筆者は、この点においてはCSRや消費者への情報開示という点から疑問を呈さずにはいられなかった。ボルドーはブルゴーニュなどとは違い、単一品種ではなくアッサンブラージュで独自のテーストを築いてきたわけだが、その主流は、やはりカベルネ・ソーヴィニョンとメルロー、そしてわずかなカベルネ・フランという黄金比率によるところが大きい。ボルドーワインに対する消費者の知見も広く深くなってきており、トウリガ・ナシオナルが9%も入っているにもかかわらず、表記されないとすると、それはデメリット表示を記載しないも同然だ。もちろん、デメリットではなく、メリットとなる可能性もある訳だが、いずれにしてもコンプライアンス上も、この点は詳らかにすべきと感じた。

サスティナブルには、こうした倫理的要素も含まれている。この点は伝統の維持と革新の狭間で、道を間違うことなく、進めていってほしいものだと切に思う。

翻って、我が国のサスティナブルへの取り組みは周回遅れだ。ファッション業界も欧米とは格段に差を付けられている。今月開かれた「楽天ファッションウィーク東京」でも、ようやくサスティナブルを掲げるプレゼンテーションが増えてきたことを少しばかり実感できたところだ。もはや単なるトレンドではない、「外せない」テーマだと認識すべき時が来たが、倫理的、人道的見地からのサスティナブルも見落としてはいけない。