久保 雅裕

2019 07 Jul

ファッションデザインのインキュベーションは不要??

渋谷スクランブルスクエア東棟 ©渋谷スクランブルスクエア

先月、渋谷パルコの、そしてつい先日、渋谷スクランブルスクエア第Ⅰ期(東棟)の記者会見が開かれた。この後も新宮下公園、東急プラザ跡に同施設が入居する予定の東急フクラス、旧南平台プロジェクトの渋谷ソラスタ、スクランブルスクエア第Ⅱ期(中央棟・西棟)、渋谷桜丘口地区など続々と新商業施設がオープンする。渋谷はオーバーストアへ向けて、ばく進中といったところだ。 

さてスクランブルスクエアは渋谷駅上という事で、1日330万人ものトラフィックを取り込めるアドバンテージがある。上層階にはオフィスが入居する点はパルコも同じだが、パルコが19階なのに対して、スクランブルスクエアは47階と高さが段違い。だが商業面積はパルコが42000㎡、スクランブルスクエアが32000㎡と逆にパルコの方が大きい。店舗数で見るとパルコが180店、スクランブルスクエアが212店(うち物販125店)。

渋谷パルコ ©2019, Takenaka Corporation

パルコには、デザイナーブランドをはじめ、サブカル系コンテンツも導入され、挑戦的なテナントリーシングに多少はワクワクするところもある。特に3階の「GEYSER TOKYO」と4階の「PORT PARCO」というインキュベーションを試みる店舗も導入されるようだ。ただポートパルコは、東京都の業務委託という事で、一部の選ばれたデザイナーのみの狭い範囲にならないことを願いたい。

一方のスクランブルスクエアには、残念ながら新味はない。3階には「バレンシアガ」「ジバンシィ」などのラグジュアリーや「サカイ」などインターナショナルブランドが入居する。7~8階には、安定のセレクトショップ「トゥモローランド」「ジャーナルスタンダード」など驚かされることのないリーシングだ。3階の「スクランブル・ザ・フェイス」と7階の「エル・バイ・セブン」がイベントペースになるようだが、インキュベーション切り口という兆しは見えない。15階にはベンチャーを育てるような会員制のサロン「渋谷キューズ」が設置されるが、ファッションデザインの分野ではなく、今風の渋谷ビットバレー系の「We work」のような取り組みに見える。4階に東急百貨店がオープンさせる「428-224(シブヤニーニーヨン)」がウィメンズウェア・雑貨のセレクト業態らしく、その内容には注目したい。

ただJR東日本、東京メトロ、東急電鉄という大手鉄道3社が事業主体という大規模プロジェクトにもかかわらず、非効率なインキュベーションのテーマは、切り捨てられたのかと正直がっかりさせられる内容だった。欧州ではパトロニズムという言葉が今も生きている。それはかつて貴族が画家を支えたのと同じように。だが翻って我が国では、これだけの大企業のプロジェクトですら、効率優先。「ファッションデザインに未来は無い」と見て、伸びそうなITにシフトしたという事だろうか。百歩譲って、「ファッションデザインのインキュベーションは、テナントに任せるべき」と考えるなら、賃借条件を緩和したスペースも用意すべきだが、それも無さそうだ。

全てにおいて、数字優先で回る世の中になってしまい、本来のビジネスの役割「社会的貢献」が後景に追いやられている感が否めないと思ったのは、筆者だけではないだろう。