久保 雅裕

2018 20 Dec

ほとばしる創作意欲に圧倒される 映画『バスキア、10代最後のとき』

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©Bobby Grossman

バンクシーの絵がオークション会場で切り刻まれた事件は記憶に新しいが、現代アートに占めるウォールアートやストリートアートの存在感は否応にも高まっている。バンクシーは、世界各地でメッセージ性の強いストリートアートを神出鬼没で描き出してきた。本作『バスキア、10代最後のとき(原題;BOOM FOR REAL:THE LATE TEENAGE YEARS OF JEANMICHEL BASQUIAT1)』で明確なドキュメンタリーとして描かれたジャン=ミシェル・バスキアもバンクシーほどワールドワイドではないが、マンハッタンを中心に街を自身のカンバスとして活かし、その後認められるにつれ、ロス、ベネチア、マウイなどで作品制作に勤しんだ。

さて古くはアートが布教の一端を担った時代や貴族たちの自尊心を高める時代を経て、草の根からの表現の発露としての時代を確実に迎えたことを意味している。もちろん遥か彼方の時代にも壁画をはじめとしたウォールアートは存在したのだが、それは教材だったり、後世に伝える歴史絵巻のような役割を兼ねていた部分も強くあり、もちろんその中に自己表現の発露として傑出した作品を作り出した人物も居たかもしれないが、「詠み人知らず」みたいなもので、残念ながら世界的認知を得るのは難しい事だったと言える。そういう意味でアンディ・ウォーホルを筆頭に広く多くの人々に認識されるに至ったのは、コンテンポラリーアートというカテゴリーができたという時代感と並走しているからなのだろう。マルセル・デュシャンのように観る者との対峙から生まれる不安定さを持った複雑さもコンテンポラリーアートの醍醐味だが、一方でストリートアートの持つ、ほとばしる創作意欲が表層に現れる作品にも強いオーラを感じるものだ。もちろん100年後にそれらコンテンポラリーアートがどのような評価になっているかは想像できないが。

1988年に27歳という若さで逝ったバスキアがニューヨーク、特にハーレムのブラックカルチャーのもとで様々に影響を受けつつ、周囲の人々とシンクロしながら育っていったのかを当時の映像や写真を交えながら綴ってくれる本作は、「ジャン=ミシェル・バスキア没後30年企画」と銘打って、貴重な史料的価値のある作品となっている。「SAMO」によるマンメイド、マルコムXやビ・バップ、クラブシーンやグラフィティアートからの影響など、彼を取り巻く様々な因子が読み解かれるように見えてくる。そして何といってもウォーホルとの交流は多大な影響を与えたに違いない。

12月22日よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。