武田 尚子
歴史の蓄積を未来へ託す人財育成
服飾の中でも、インナーウエア(ランジェリー)に特化した人財育成を掲げた講座がスタートしている。題して「女性下着のデザイナー・パタンナーを目指す方の特別講座」(主催:文化服装学院、後援:日本ボディファッション協会)。
座学や課外学習入り交えた半年にわたるスケジュールの中でも、初日のオリエンテーションに続く最初の講座を私が担当させていただいた。お題目は、「下着の歴史」。
和装の伝統の日本において、一般的に洋装下着が浸透したのは戦後(1945年以降)のことだが、世界的に見ると、西洋のコルセットの時代はもちろんのこと、下着の歴史、すなわち衣服の歴史は4万年前までさかのぼるとされている。それを1時間でどう話そうかという挑戦であったわけだが、とにかく年代別(1950年代、60年代~2010年代)のエポックメーキングな出来事をあげ、そのいずれもが今日に引き継がれている共通キーワードであることを伝えようと思った。
最後に、聴講生(文化服装学院の学生さん、NBF会員企業の若手社員、一般公募)の方々との質疑応答の時間を少し持ったが、そこでの質問が本質をついた実に興味深いものであった。その質問の中から2つを紹介したい。
●いろいろなものが既にそろっていて、もう新しいものを開発する必要はないのではないか
●自然志向(体を解放させる快適性重視の時代)と造形志向(体型補整重視の時代)はどういう周期でやってくるのか
特に後者の方を改めて考えてみると、おもしろい発見があった。
今が「自然志向」の方であることは確かだが、既に「造形志向」への揺り戻しの動きも見られる。もちろん、この両者は完全に分かれるわけではなく、どの時代も常に共存しているわけだが、そのバランスの揺れみたいなものがあって、主軸がどちらにあるかは時代によって異なる。それでいくと、以下のようになるではないだろうか。
1945年から1950年代 造形性の時代(プロポーション意識)
1960年代・1970年代 自然志向の時代(カジュアル化&ヤング化)
1980年代・1990年代 造形性の時代(ボディコンシャス)
2000年代・2010年代 自然志向の時代(健康&快適性)
このように20年周期となると、2020年代は再び「造形性」の時代だろうか。もちろん1950年代や1980・1990年代のそれとは異なり、いろいろな意味で進化していることはいうまでもないが。