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2018 23 Aug

【最新版全米小売TOP100を制覇した「Primark(プライマーク)とは?

 こんにちは、AIR(アパレルウェブイノベーションレポート)海外コンテンツ担当のケルビンです。今週も海外市場の最新情報をお届けします。

 先日、全米小売業協会(National Retail Federation)が出版した小売業界向けの専門誌『Stores』が「アメリカで最も成長著しい小売企業トップ100」の最新ランキングを発表しました。『Stores』はイギリスのコンサルティング大手、カンター・コンサルティング(KANTAR CONSULTING)によるデータを用いて、対象企業の2016年と2017年のアメリカ国内の売上(ECと実店舗を含む)を比較し、売上の昨年対比の伸び率を基にランク付けした結果です。アマゾンなど米国本土の巨大小売企業を抑えて、1位に輝いたのが、アイルランド発のファストァッションブランド「Primark」(プライマーク)です。米国の小売市場の競争の激しさは世界トップクラスと言われている中、海外企業が米国市場に参入することは尚壁が高いです。海外の新参者「Primark」の快挙について探って行きたいと思います。

 

↓売上の伸び率トップ5企業をご参考まで↓
1位 【ファッション】プライマーク(Primark) —— 98億7500万ドル(103%増)
2位 【釣り道具・アウトドア用品専門店】バス・プロ・ショップス(Bass Pro Shops) —— 78億3700万ドル(94%増)
3位 【住宅リフォーム専門店】 Build.com —— 44億9000万ドル(47%増)
4位  アマゾン(Amazon) —— 1559億4300万ドル(45%増)
5位 【住宅リフォーム専門店】ウェイフェア(Wayfair) —— 46億9600万ドル(36%増)

 

参考:全100位リスト:https://stores.org/stores-hot-retailers-2018/

 

【「Primark」(プライマーク)とは】

アソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズ(Associated British Foods plc、ABF)という世界48か国で食品加工・販売や衣料品販売を展開する多国籍企業グループの子会社として、「Primark」は1969年にアイルランドのダブリンで設立されました。子供服、アパレル、服飾雑貨から化粧品まで幅広い商材を展開しています、イギリスを中心に、ヨーロッパでは約350以上の店舗を構えています。2015年には米国市場にECと実店舗を進出しました。現在米国に8店舗を構えています。

 

【ファストファッション業界のEverlane(エバーレーン)か?】
 
「Primark」が米国市場で大きく成長した要因について調べたところ、同社の企業理念が米国の消費者に信頼してもらえたことが一つ重要なポイントだと思います。「Primark」のECサイトのトップページに、「Our Ethics」(意味:私達の企業倫理)というセクションがあります。そこに約1分半程度で「Primark」の企業理念、ビジネスモデルの説明動画があります。動画の内容をまとめると下記の要点になります。
 
「Primark」の商品が低価格でも品質保証出来ている理由:
極力広告宣伝費用を削減
著名人をプロモーションに起用しない
リアル店舗で使う什器、ハンガー、ショッパーなどの備品に高級品を使用せず、極力リサイクル品を活用
 
その他、一般のファストファッションブランドと同じように、大量生産によって仕入れ原価を抑えています。このように、企業自らビジネスモデルの仕組みを公開する事例と言えば、米国のファッションブランド「Everlane」が良く知られていると思います。「Everlane」は卸マージンを削減し、より合理的な小売価格で商品を提供しています。「Everlane」のECサイトでは具体的に材料費、縫製費、関税、輸送費を含んだ小売価格の内訳を公開するビジネスモデルで有名なのです。したがって商品の小売価格のコストを透明化にしたことによって、消費者に納得した上で、購入して頂くことで消費者の信頼を得ることができます。2010年に創業した「Everlane」の直近の具体的な売上金額が見つかりませんでしたが、海外のメディアを見ると「Everlane」今なお事業が堅調という報道が多く見受けられます。特に価格構造を透明化している点が、米国市場のミレニアル世代の消費者の信頼を得て、支持されているブランドとして注目されています。
 
「Primark」は「Everlane」のように、価格構造の具体的数字までは公開していないですが、ビジネスモデルを透明化にしていることはファストファッションブランドでは初めて試みです。少なくもビジネスモデルを公開している努力が、消費者から信頼に繋がり、最終的に売上にも貢献していることが考えられます。また「Primark」が極力コスト削減の経営方針自体も売上改善に役に立つことは間違えないでしょう。
 

【ミレニアル世代とZ世代から信頼を得る重要性】

「Primark」のメインターゲット顧客はミレニアル世代とZ世代です。フランスの広告代理店大手、Criteo(クリテオ)がミレニアル世代とZ世代の特徴に対する分析の文献によると、ミレニアル世代は現在23歳~37歳、Z世代は現在6歳~22歳の人に指します。ミレニアル世代の消費者はいまの消費市場をけん引するグループで、Z世代は現在学生ですが、米国の人口の4分の1を占めるほど、今後消費市場のけん引役になることが想定できます。2017年、米国国勢調査局が発表したミレニアル世代とZ世代の消費習慣に関する調査レポートにいると、ミレニアル世代もZ世代もブランドを選ぶ時の基準は、価格や品質だけではなく、ブランドの歴史、コンテンツ、企業理念などの「内面」的な部分も重視することが判明しました。

 

【社会的責任を意識した持継可能な生産】

 近年ファストファッションのビジネスモデルに対し、国内外でも批判的な報道が見受けられます。その原因は、一部のファストファッションブランドがバングラデシュなどの発展途上国を中心に利用先の工場、あるいは自社工場で、低賃金かつ過酷な労働環境で「安い労働力」を利用したことで、生産コストを大きく抑えていますが、人権侵害として問題視されています。また大量生産の副産物による環境汚染問題も指摘される要因です。実際米国市場で、こういった報道が広がり、ミレニアル世代とZ世代による個別のファストファッションブランドに対する、不買運動もありました。ここで前述に引用した米国国勢調査局が発表したレポートのように、ミレニアル世代もZ世代もブランドの内面的な部分を重視していることの裏付にもなると思います。

 前述、「Primark」と「Everlane」の事業の成長に繋がった要因は顧客(具体的にミレニアル世代)から得た信頼が重要な理由だと述べました。この「信頼」につながるにはブランドの「内面」的部分こそ「Primark」と他のファストファッションブランドの違うところです。冒頭に紹介した「Primark」の説明動画では、同社の企業理念を表す言葉があります。”We take care from sourcing to store”、意味は私達は資材調達から店舗販売までの流れを心かけて管理しています。「Primark」が自社工場を持たずに、指定の工場へ発注し、商品を調達しています。ただし、「Primark」は社会的責任を意識した持継可能な生産モデルを目指しているため、利用先の工場の従業員の労働環境、健康状態、賃金の支払い状況が国際人道法と「Primark」が自社で制定したCode of Conduct.(行動規範)に満たしている工場のみ発注の契約を結びます。さらに世界各地にある利用先の工場に「Primark」自社約100人の専属監視部隊を現地に派遣し、工場の労働環境や従業員の賃金支払い状況が国際人道法と自社が制定した行動規範に違反していないかどうかを監視することに徹底しています。「Primark」がもう一歩を踏み出したのが、まだ国際人道法の基準に満たしていない工場に対し、自社の「持継可能な生産モデル」の専門家部隊を無償で派遣し、対象工場のマネジメント層から生産従業員までトレニンーグや研修も行っています。「Primark」ECサイトやSNSでは定期的に利用先の工場の紹介や生産状況の報告も行っています。

 「Primark」が目指している「社会的責任を意識した持継可能な生産モデル」に最も強烈な印象を受けたのが、原材料調達に対するこだわりです。インドは「Primark」にとってコットンの最大の供給国です。多くのコットンを栽培する農家はインドの女性ですが、ほどんとこれらの女性は栽培技術に関する知識やノウハウに乏しいため、商品として売れる量や価格も低いことになります。「Primark」が2013年に、インド自営女性協会と提携し、これら女性の農家の収入を改善する目的に、「Primark」自社のコットン栽培の専門家を無償で派遣し、インドの女性農家に環境汚染の少ない栽培技術などの指導やビジネススキルを伝授し、2013年にこの教育プログラムを実施して以来、既に1万名以上の女性農家が参加し、「Primark」の最新報告による、これらの参加者が教育プログラムで得た知識やノウハウを活用し、平均収入が約200%にも上がりました。こうして女性農家の生活水準の改善に貢献できたと同時に、より質の高い、供給が安定したコットンも手に入れることが可能になりました。

【ビジネスと社会的責任を両立するヒント】

 今回「Primark」について、特にビジネスと社会的責任を両立させる努力に対するこだわりに感銘を受けました。提携先の工場や原材料調達地に対する様々な無償支援しながら、一方、広告宣伝費用などのコストを削減し、製品の品質向上に活用することは簡単ではないと思います。何よりも、「Primark」が自社の企業倫理を基に徹底した企業理念が、消費者だけではなく、「Primark」の事業に関わる関連企業にも信頼を得て、こうして誠実で、事業を透明化にした姿勢が最終的にビジネスの発展に欠かせない要素になるかもしれません。