船橋 芳信

2019 19 Mar

初日のスカラ座へ、

3)Corso Venezia 16 Milano

モノローグ3)
ミラノの冬は、霧に覆われる。ミラネーゼ達は、冬は劇場に通い、劇場が社交の場と化する。
劇場と言えば、オペラの殿堂、スカラ座が、ミラノに存在する。Corso Venezia 16番地からは、
徒歩で5〜6分、12月07日が、シーズン開幕日、早速デザイナーのEnzinoに、
「スカラ座の切符は如何すれば取れるの?」
「ここに電話しろ!ミスターZに聴くと言い!」
Mr. Zは、スカラ座の切符売り場に働いていた。しかもボスの直下で働いていた。
「ボンジョルノ、Zさん!」
「明後日のスカラ座のオペラのチケット、欲しいんですが?」
Sig Zは、眼鏡越しに上目使いで、
「何処がほしい?」
始めてのスカラ座、しかもシーズン開幕のオープニングチケットとである。
安い切符は、先ず最初から売れていってしまう。
 オープニングチケットはべらぼうに高い。
プラテアの席は、150万リラ、当時の日本円で、17から18万円した。
とてもプラテアの席は買えない。天井桟敷を頼んだ。
奇跡的に、セコンドガレリアの2列目、中央の席が手に入った。
「グラッツェ、Sig Z !」
セコンドガレリアの2列目なのに、ナント、160.000リラ,ユーロに換算すると、
約85ユーロ、大散財であった。それでも、ワーグナーのオペラ、ローエングリーン、
スカラ座シーズン初日に、行くことになった。
指揮は,Claudio Abbado,舞台監督はGiorgio Strehler, 唯一名前を知っているのが
ソプラノ、Anna Tomowa-Sintowだった。ストリーも勉強せずに、いきなりワーグナーの
ローエングリーンを見ることになった。仕事場から、直にスカラ座へ行き、ジーパン姿で
席に着いた時、横に座って居る御夫人のエレガントな黒のドレスに、我が居場所の無さを思い知った。
ホワイエには紳士淑女の豪華に服装に身を律した空間を、天井のシャンデリアが、煌びやかに輝かせていた。
 我身はジーパンにオーバージャケット、これほどに、みすぼらしさを思い知った事は無かった。
スカラ座のシーズンオープニングのドレスコードを、無視した当然の報いでもあった。
 そんな悔しさで、その後、後2回このローエングリ-ンを観劇した。3度目の時、第一幕目で、
ローエングリーンが長い槍を持って出て来るシーン、舞台上の彼の手には、何も無い。
舞台前に、槍を手にしないで出てしまっていた。何度も見ていると、そんな不備が見えて、
オペラがぐっと身近に感じたのを思い出す。