船橋 芳信
ナポリ男の服は!
先日、ナポリ民謡が男の情熱の固まりの様な物だと、書きました。
ナポリには、今でもサルト、注文服屋が、未だ未だあります。それは、注文服の需要が、
南イタリアには、あるんですね。男達が、自分の為に服を注文する。
就職してスーツが必要だから、という動機での服を求めるのではない。
自分を格好良く見せたい、身ぎれいにしておきたいと言う動機が、ひたすら強い。
街角にはそんな、ナポリ男の要求を満たしてくれる洋服屋が、注文仕立ての靴屋がある。
自分の好きなカタチの注文靴をいつか注文してみたいと願って、何年が過ぎた事だろうか!
ワイシャツ、ネクタイ、多くのオジェットが未だ未だ待ち受けている事を、
ナポリ男の頭の中にはつまっているのを感じる。其の情熱の動機に存在する女性への憧れは、
何か純粋な青春の光にも似た、想いを感じてしまう。
私のアトリエには、80歳を過ぎたサルトが、時々遊びに訪れる。彼の頭の中には、服作りのノウハウが、
限り無く詰まっている。来ると作業している服の生地を見る。触る。手に取って、無言に何か納得している。
服作りに人生のほとんどを費やした職人の潔さが、溢れている。と同時に口うるささが、一言出ると
止まる事が亡くなって、こちらの「バスタ!スタイ、ジット!ウルサイ、黙ってろ!」と、、、
ナポリの男の要求するスタイルは、身体にフィットする、袖周りをきつくタイトに作り上げる。袖周りがきついと
身巾もフィットしてくる。身巾がフィットしてくると下腹部が下から持ち上がり、背筋が伸びてくる。
背筋が伸びると腰が入り、胸が開く。胸が開くと顎が下がり、首が真っすぐに伸び、姿勢は、完璧な
恋愛戦闘態勢に突入する。其処で戦争準備が整った、ナポリ男の胸には、ポケットチーフが、さりげなく、
口の端には、愛の言葉が、蜂蜜のように煌めき、溢れる情熱を潤んだ眼に秘めて、抱えた深紅のバラの花束を、
かざして、愛する彼女の家の窓の下、セレナーデを歌う。