山中 健

2020 29 Apr

ウィズコロナでファッションウィークはどう変わる

(写真:2020年1月に行われたエルメネジルドゼニアのショー via apparel-web.com

 

パンデミック状況下において、2021春夏シーズン「エルメネジルド ゼニア」がランウェイショーを取りやめることが決まりました。「エルメネジルド ゼニア」はいつもミラノメンズ開幕の象徴でした。6月から9月に延期したミラノファッションウィーク協会にとっては痛手でしょう。またスケジュールの見直しをしている「サンローラン」がいつも参加しているパリコレも9月。「9月になれば収束する」という思いも打ち砕かれました。9月はアフターコロナではなく、ウィズコロナなのです。ランウェイショーは、どんなことをしても人が密着しますし、ファッションウィークとなれば世界各国からメディアやジャーナリスト、バイヤーらを多数呼ぶので、第二波、第三波の感染を生む可能性をはらんでいます

このことは、ファッションウィークのあり方を問うことにつながるでしょう。ウィズコロナはもちろん、アフターコロナでも従来のファッションウィークのままということはないでしょう。そもそもビフォアーコロナの段階で、ファッションウィーク開催への反対意見や無用論はありました。世界各国から多くの人を呼び、30分足らずのショーのために資源を使用するのは環境保全に反するという意見、ファッションウィークが生むトレンドが商売にならないという意見などです。

海外でコレクション取材をし続ける私としては、ファッションウィークの魅力を知っているつもりです。そしてそこにビジネスのヒントがあることも知っています。一気にファッショントレンドの発信源を見ることができるとても楽なプラットフォームですし、そこで生まれるコミュニティーもとても貴重なものでした。また、ファッションウィークが生む経済効果も大きいです。しかし、エンドユーザーやマスマーケットの関係者にとっては無用と思えるのもわかります。

(写真:2020年2月に行われたディオールのショー via apparel-web.com

参加するブランド側の事情はどうでしょうか。ファッションウィークに参加するブランドの目的はいくつかに分かれます。「業界での評価を求める新進デザイナー」、「自ブランドの権威付けをしたいブランド」、そして「服飾文化の継承を担うトップメゾン」です。まずファッションウィークに参加しなくなったのが「自ブランドの権威付けをしたいブランド」です。ニューヨークファッションウィークではこのようなブランドの参加が多かったのですが、デジタルの進展によるマーケット変化により参加しなくなり、今は従来のファッションウィークとは異なったものに変容しています。パリやミラノ、ロンドンでもどんどんこのようなブランドの参加はなくなるでしょう。

 

トップメゾンはどうなるのでしょうか。今回、ショーの取りやめを決めた「エルメネジルド ゼニア」や「サンローラン」などはここに含まれます。「エルメネジルド ゼニア」はデジタルでの発信を構想しているとしており、「サンローラン」もコレクションの発表自体は行うと見られます。このトップメゾンの選択が、今後のファッションウィークの変容に影響を及ぼします。私が思うに「デジタル」と「リアル」のハイブリットが中心になっていくと思います。トップメゾンが昔やっていたようなサロンショーとデジタル配信、そしてアポイントメント制展示会を組み合わせるケースが増えると考えます。

 

ファッションウィークの変容についていけるか心配なのが、新進デザイナーたちです。彼を見出すのは今も業界のプロたちです。トップバイヤーやトップエディター、メディアが彼らを評価し、取り上げることで世に出ます。様々なデジタルトランスフォーメーションが起きても、そこは変わらないのではないでしょうか。新進デザイナーのほとんどは一般ユーザーにとっては理解しがたいものが多いと考えますし、SNSでの突発的な人気や無責任な評価によってダメージを受けるケースも見られます。また、ファッションウィークは新進デザイナーのプラットフォームとして機能して欲しいと願うばかりです。世界からバイヤーやジャーナリスト、メディアが集まらなくなるとその機能性は落ちます。

またオンラインでのショーという手法も取られていますが、トップバイヤーやトップエディター、メディアが必ず見るとは限られません。リアルのショーは、出欠を聞いて席を用意することで、それらのキーパーソンの時間を確保できたのでしょう。例えば欧州のショーをやるとのは日本時間の夕方から深夜。それを見る人はとても限定されます。もちろん有名なブランドでしたら、リピート再生してみるでしょうが、知らないブランドを探してみるということは稀でしょう。

それではどうしたら良いのか。私は、サンプルを今より多く作り、ファッションウィークだけでなく世界各地での展示会開催を広げることだと思います。大きなブランドであれば、単独展示会で世界をキャラバンするということもできますが、新進デザイナーにとっては無理な話です。デザイナーやショールームやアタッシュドプレス、そしてメディアの仕事のあり方が変われば可能だと思います。

新進デザイナーのコレクション発表が魅力だったロンドンファッションウィークが、デジタルでの開催を表明しました。まずはそれを注視していきたいと思います。

 

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