山田 晶子

2018 11 Sep

「90’sアイドル」と社会潮流

【社会潮流】は、ファッションに示唆を与えてくれる・・・

ファッションの経糸は、【理念・思想・精神・美意識・・・】、緯糸が【社会潮流】という観点で進んできている当連載、数えること20~25年前は、「アイドル」と言われるアーティストが《経糸》の役割もしていたのかと思われます。「アイドル」とは「崇拝される人」「憧れの的」「熱狂的なファンをもつ人」であり、90’sには、その人自身が【社会潮流】ともなり、JAPANファッションを牽引してくれてもいました。

その人の名は「安室 奈美恵」。2018年9月16日に引退を控え、彼女は単なるアーティストとして惜しまれているだけではなく、その社会潮流における功績を一般ピープルは痛感しており、惜しみない讃辞を贈り続けています。当時、1996年12月には、彼女を崇拝する女性達を指した<アムラー>という言葉が流行語大賞に選出され、特に女子高生を中心に、街は、彼女のスタイルを真似た<アムラー>で溢れていました…。

■ 90’s JAPAN STREET FASHION 

安室奈美恵は1997年9月生まれの40歳。 元祖ジャパンSPA「オゾック」誕生を10代半ば~10代後半で迎え、ストリートファッション~109ブームと、ジャパンギャル文化を築いた立役者は彼女達!

世代特徴としては、プリクラ(95年に世に出た「プリント倶楽部」)に親しみ、旬な今を楽しむ気持ちや仲間意識が強く、独自のカルチャーを生みだした世代。彼女達が20歳前後、1996年、男女雇用均等法施行から10年が経ち、ワーキングウーマン雑誌として「Domani」が創刊。社会的にも、「働く女性」は認識され始め、「女性の自立」を名実ともに確立し始めた世代でもある。

90’sの時代そのものは、バブル崩壊後の先行き不透明感と、新世紀をまもなく迎える期待感から≪模索と混沌≫を抱えた「時代の気分」。 社会人男性に深まる≪模索と混沌≫、働く女性も、社会人の一員として社会人男性の「時代の気分」に寄添いながら「働く女性」を遂行しており、最も力強く、時代を牽引していたのは<アムラー>を中心とした女子高生であった。ある意味、社会(≒男性文化)が落込むと、女性ファッションは隆盛を極めるのも世の常である。・・・女性が【社会潮流】の表舞台に立ち始める・・・ちなみに、この世代の4~5歳上の「働く女性」達も、この後、「大人女子」という新フィールドを得て、台頭し始めるのであった!

話題を戻そう。 90’s ジャパンギャル文化の立役者である、安室奈美恵のアーティストとしての功績を振返る。1992年デビュー、1995年より小室哲哉がプロデュース、翌年1996年にはセカンドアルバム「SWEET 19 BLUES」がリリースされ、トリプルミリオンを突破する。同アルバムは出荷350万枚と当時の過去最高記録となり、10代の歌手としての記録も次々と塗り替えていった。年末には、「第38回日本レコード大賞」において、「Don't wanna cry」で史上最年少(当時19歳)で大賞を受賞する。80’sアイドルに多くみられた「唯カワイイ」といったカテゴリーとは一線を画し、プロのアーティストとしてある種「働く女性」を体現化していたのが印象深い。

当時の朝日新聞には、

「新しいのは安室自身の歌にも示されている強い自己主張だ。 赤くない口紅、細い眉を強調する化粧、素足など、男の好みに合わせるよりも自己表現を重視する傾向は、最近の流行にも表れている」

と記載されていたという。

90’sには、どんなファッションシーンが展開されていたのか…

①新世紀を迎える躍動感~「スポーツ」ファクター⇒「ナイキ」 ブーム 

「スポーツ×テクノロジー」を背景に、いわゆるハイテクスニーカーがブームに。

 

②「混沌」に対して、襟を正したいきちんと感~「トラッドスタイル」ファクター

⇒「Ralph Lauren」 ブーム 

マーケット背景からも、渋カジファッション、セレクトショップブームが後押し。「大人の紺ブレ」浮上。

 

③型にはまらない新しさを「模索」~「ミュージックシーン」ファクター

⇒「グランジロック」ブーム~ 「グランジファッション」  

背景として、精神性を重視する、オルタナティブ(型にはまらない、もう一方の選択)志向→ミュージック/オルタナティブロックのひとつである「グランジ(薄汚い)ロック」からの「グランジファッション」

といったところが、日本含めグローバルにも拡がりを見せていた。…そういったファッションシーンの中で、「初のJAPAN STREET FASHION」と言っても過言ではない、独自性溢れるファッションが 、彼女達のファッションスピリッツをコアにして、日本を席巻し、ファッション業界もその恩恵を受けていった!

■彼女を想う「人と企業」

安室奈美恵の前半期の育ての親とも言える小室哲哉は、2017年、彼女の引退発表後の所感として、

「正直、仕事で何とも言えない寂しさを感じるのは初めてです」とコメント。「これからいよいよブレイクして行くのだなあという瞬間に立ち会えてから20年、あらゆる奇跡を起こし、足跡を残し、そんな姿を誇らしく思い、そして、あと1年で卒業という現実を知る。このプロセスはなかなか味わう事はないでしょう」と語っている。

そして、ファッションシーンでは、引退を機に、グローバルSPA、H&Mと2回のコラボを果たす。

「BUSINESS INSIDER JAPAN」によると、彼女のもとには、ファッション、化粧品ブランドや商業施設、イベント出演など、多くのコラボ企画のオファーが持ち込まれていたという。 その中でH&Mは、

「多くの日本人がそうであるように、H&Mのスタッフも、安室さんの音楽や価値観の影響を多大に受けている。日本が誇るスーパースターとしてだけではなく、幅広い世代の女性のロールモデルとして活躍される安室さんに、私たちは魅了されてきた」

「ロールモデルやファッション・アイコンとしての安室さんを支持するだけではなく、安室さんから多くのインスピレーションを受け取っているファンの方々やお客さまに、歴史に残るようなキャンペーンを届けたい」

と、熱烈なメッセージを送り、コラボレーションが実現したという。

通常、H&Mのデザイナーズコラボは、世界約200店舗とのことだが、今回、日本発信企画で、アジア600店舗規模で大キャンペーンを展開できたのは異例のことのようだ。

 

■必然的な「奇跡」~エポックメイキング

「安室奈美恵」は、時代が産んだ、ひとつの社会潮流であり、まさしく「奇跡」だったのであろう。 エポックメイキングとは、この様に訪れる。

彼女の類まれな資質とプロフェッショナル・スピリッツが、当時の「働く女性」と「女子高生」の社会的立ち位置とリンクしつつ、多くの女性をエンパワメントしながら、一大ファッションも生まれた。

ファッション業界で働く我々は、この時代に対して郷愁を持ち、「良かった時代」などと思っていては、決して前に進んではいけない。過去に立ち戻らない、安室奈美恵の有終の美は「潔さ」に彩られている。

お気づきの方も多いかと拝察しますが、前述90’sのファッションシーンは①②、「オルタナティブ」を「型にはまらないスーパーリミックス」と捉えれば③も、まさに今現在、18FWファッションと呼応しています。

何故なら、我々も現在、当時とは異なった質での≪模索と混沌≫の真っ只中に位置しているから…! 一方、そこには<サスティナビリティ>と<ダイバーシティ>と<テクノロジー>がクロスしているので、そう簡単に「90年代調がトレンドですね」などとは、言っていられないのも現実。

同じヴィジュアル好きでも、「プリクラ」と「インスタ」の内包する意味は、随分と異なってくる…。

我々が、今【社会潮流】から掴み取るべきは、何なのか…?

それは、≪小さな奇跡≫であり、それは人々の≪模索と混沌≫を和らいでくれ、「ファッションの役割」を果たしてくれるものとなるだろう。

 

 

【社会潮流】は、ファッションが向かうべき方向を示してくれ、21世紀のファッションビジネスに活路を与えてくれます。

≪小さな奇跡≫を手に取りたい方はご連絡を!

では、また次回。

私達の進むべき道は、【社会潮流】の深堀りです・・・!!