小島 健輔
旅立ちと胸騒ぎの春
48年ぶりという厳しい冬もようやく終わり、今年の桜開花は例年より九日も早かったそうだ。冬が厳しかっただけ桜の開花も早くなったのだろう。それはともかく、春は終わりと始まりの旅立ちの季節でもある。
私の周りでも会社を移られる方が目に付くが、その数とお立場は例年の比ではない。役員/執行役員クラス、それも大手セレクトに集中しているのが今春の特徴ではないか。どこの誰がどこへ行ったとか公表されるまで不用意に拡散すべきではないが、余人をもって代え難い超一級の人材も含まれている。何が何でも引き留めるべき人材が辞めてしまうというのは、やはり何処かに問題があるのだろう。
2月末に辞められた、あるいは3月末で辞められる方の多くはそれぞれ店舗運営や商品開発、ECを極めた逸材だが、組織の上層でスマートに数字の辻褄を合わせたり狡猾にバランスをとったりする性格ではなかったのかも知れない。セレクトも組織が大きくなって上層部が官僚化し、意思決定が現場や顧客から乖離した感があるが、そんな組織では現場で叩き上げた“地上の星”が冷遇され、スマートに泳ぐ“天空の星”ばかりに陽が当たる。
華やかな新規事業やイベントの陰で店舗や物流を支える現場労働者は報われない日々を過ごし、若さの勢いを失う頃に見切りをつけて去っていく。そんな状況をなんとか変えようと頑張って来た現場上がりの幹部さえ見切りをつけて去っていく旅立ちの春は花冷えが身に凍みる花曇りなのだろう。
大手セレクトやアパレルチェーンが規模の拡大に見合うガバナンスを確立できないなら、業績がじりじりと悪化するか、望まぬM&Aに巻き込まれるか、いずれにせよ幸せな未来はないだろう。このままでよいとは思えないから、いずれ革命か維新が避けられない。そんな胸騒ぎがする旅立ちの春だ。
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