北村 禎宏

2019 02 Nov

人間ならでは

 年に一回あるかないかのメディア取材がたまたま立て続いた。ビジネスジャーナルさんと週刊現代さんだ。それぞれ公開前なので内容は伏せるが、いずれもファッション業界の行く末を憂う内容である点が共通している。

 さて、コカ・コーラが350mlと700mlの新サイズペットボトルを登場させるとリリースされた。缶の時代には馴染みのあった350mlもペットボトル仕様では初めてのようだ。前者はお一人様用の飲みきりサイズ、後者は二人飲みサイズと謳っている。確かに200と500は帯に短し襷に長しの可能性はある。いずれも私たちののどごしと胃袋からもたらされる最適値に近いと考えられるが、それでも50の単位で丸められている。

 私たちが五本指に進化したことから人間が日常的に用いるのは10進法になった。鳥ならば6進法を、馬ならばコンピュータばりの2進法を、なんとパンダだったら12進法を採用したであろうことは想像に難くない。たまたま地球の子午線の長さを基準にメートル法が組み立てられて、その10センチ立方の体積を1?としたに過ぎない。それをさらに50とか100で区切っているので丸められていると表現した。メートル法以前の我が国の「尋」や英国の「foot」は私たち自身のサイズや方法論を踏襲した人間ならではの尺であると言える。

 コーラの本当の生物学的ジャストサイズは、359mlなのかもしれないし、719mlなのかもしれない。性別や年齢によってもそれは異なる可能性がある。そのような性質がある商品であるがゆえに丸められていることは、結果オーライで最大公約数の近辺に収斂している可能性があってマーケティングとして大きく外れではないだろう。

 翻ってファッション商品の発注ロットはどうであろうか?厳密な売上予測が1393枚であるとき、人間は1400枚もしくは1500枚をしゃべってしまう可能性が高い。カラー別に、122枚、238枚、439枚と予測された場合、100枚、250枚、500枚と発注する場合も起こり得る。過少な発注は欠品とDBロスの原因になり、過大な発注は在庫ロスとなって粗利を圧迫することは説明するまでもない。そこそこ的を射た商品であればセール弾力性も高いので過大発注も吸収されるが、毎シーズン数千品番を発注している総合ブランドとなると、経済構造に限って言うと人間が発注するがゆえに実現できていることよりも、内在してしまうリスクの方が大きいと懸念される。

 AI君に任せきりで発注してもらう方が経済的にはよっぽど優位性があるので、近い将来のそれを標榜して邁進しているアパレルも少なくない。アパレルの発注には無用だが、二進法の積み算を超克した量子コンピューターも実用段階に向けてカウントダウンが始まっている。

 私たち人間の存在意義とやるべきことを見極めながら新しい時代を迎える必要がある。