北村 禎宏

2019 28 Oct

予測から予知へ

 およそ10年後の2030年のビジョンを示しそれを逆引きした実行計画を策定するセッションで、ある受講生が記述した「予測から予知へ」というキーワードには思わずビビッと来るものがあった。

 等しくありとあらゆる業界と企業がVUCA(変動制・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代に直面していて、とりわけ自動車に関連するフィールドにおいては、“CASE革命”がより速いスピードとより大きな変化率で襲い掛かってくることをことさらに強調させていただいた文脈の延長での当該ワードだった。

 等速等加速の線形モデルもしくは収穫加速下にあったとしても指数関数で見通せる未来を「予測」の対象とするならば、そのような単純な数式モデルでは到達しない人間の精神力による判断を加味した見立てを「予知」と称するわけだ。

 私の頭の中ではアーサー・C・クラークの「地球幼年期の終わり」がフラッシュバックした。サイエンスに依拠した進化のその先には精神力に依拠した超能力の獲得という未来が待っているというストーリーはSFとしてはどうなのかとの声もあるが、まさに予知とは精神力を駆使した未来の同定でありサイエンスを超越したサイコの世界における未来透視を意味するということだ。

 おりしも線形の予測では説明不可能な出来事が多発している。激烈化する一方の風水害がその最たるものだ。雨風がこれだけ同じエリアにリピートすると、物理的復旧もさることながら、心が壊れかねない恐ろしい事態だ。ビジネス的にも損保業界の収益性の悪化と、それに伴う車両保険の大幅な増額は避けて通ることができない。

 アパレル業界も他山の石としなければならないのが気象変動による環境の激変だ。猛烈な台風やゲリラ豪雨は毎年のように年に何回もやってくるので、鉄道会社は一年未満のスパンで学習効果を蓄積していくことができる。ファッション業界に襲い掛かってくる変化は30年~50年のスパンなので、私たちのビジネスが有するサイクルタイムで対応することは極めて困難である。
その時限で何が起こるかというと、日本の亜熱帯化である。

 これも予測と言うよりも予知に近い話になるが、一説によれば早くて30年、およそ50年後には
本州以南は亜熱帯気候になるだろうという議論がある。春物と秋物を売る暇がなくなってきていることは薄々感じている業界人も多いことだろうが、毎年の薄々の積み重ねでは大きなイノベーションにはつながらない。

 それだけの年月が経過した跡に振り返って、そういえば昔日本には四季があったんだってと語り合う次世代の人々を思い浮かべながら、何かしら動かなければならないとは思いながらも、どこからどう手を付けていいのやら、私たちが人間としてもっている人生のサイクルタイムはあまりにも短い総量とピッチであることが恨めしい。