北村 禎宏

2018 28 May

ナイト流ビジネスのイロハ

フィル・ナイトのSHOE DOGからは数多くのビジネスのイロハを教えられる。

 崇高な理念に支えられた執念が何よりも大切だと。サイエンスに裏付けられた綿密なプランよりも、スピリッツに裏打ちされた大胆な行動が重要であると。

 米国はとことん契約社会なのだと。社員との雇用条件変更に際しても「契約成立だ!」と締めくくられる。

 あのスウッシュのデザイン制作費が35ドルとは驚いた。カタカナ四文字のデザインに数億円もありえるクリエイティブの相場は依頼者の支払能力と制作者のレピュテーションの関数だと思い知らされる。

 裁判は裁判官の心証によるものと改めて感じさせられる。たとえ国が相手になった場合においても戦いの行方は勝つという強い信念に支えられたやり切る力と交渉力に依存する。必ずしも客観的な正誤の勝負ではないのだ。


 銀行は何をみて何をしないのか。キャッシュバランスの安定性を追いかける限り、在庫投資が先行せざるを得ないビジネスモデルを急成長させることは困難を極める。

 家族やプライベートな関係においても、自己の存在と意志を背景に関係性が構築され維持発展していく個人主義とはかくあるものと。

 競争社会とは敵味方を明確に峻別して徹底的に勝つか負けるかを明らかにすること。

 ナイキという我が子と実の我が子の両立を果たすことができなかった無念。

 善悪を絶対的に判断することはできないが、ナイトにとっての敵味方は明確に区分されている。鬼籍に入られたり現役を退かれた方々が大半であるが、実名を伴っての時系列の記述はスリリングかつリアルな物語として迫力も満点だ。

 そして何より重要なことは、自分たちが心底打ち込める対象がビジネスドメインと重なり合っているかということだ。スポーツを愛しアスリートにコミットし、より軽く、より早く、より斬新なものを追いかけ続ける。その果てに今のナイキがある。

 日経MJでユナイテッドアローズ創業者の重松氏のHISTORY連載が始まった。無類の洋服好きでメードインUSAにどっぷり浸かった青春期を過ごしたことが語られている。

 本当に洋服好きでファッションにどっぷり浸かっていますかと問い直したときに果たしていかに。私は本が大好きで講釈をたれるのが大好きで、だからラストワンクオーターは人材育成ビジネスで仕上げを行う。