北村 禎宏
宮本武蔵はゴルフも達人?
五輪書の水の巻に「太刀遣いの理」と題して次のようなくだりがある。
太刀の道を知と云うは、常に我さす刀をゆび二つにてふる時も、道すじ能しりては、自由にふるもの也。太刀をはやく振んとするによつて、太刀の道さかひてふりがたし。太刀はふりよき程に静にふる心也。或扇、或小刀などつかふやうに、はやくふらんとおもふによつて、太刀の道さかひてふりがたし。それは小刀きざみといひて、太刀にては人のきれざるもの也。
太刀を打ちさげては、あげよき道へあげ、横にふりてはよこにもどりよき道へもどし、いかにも大きにひぢをのべて、強くふる事、是太刀の道也。
我兵法の五つのおもてをつかひ覚れば、太刀の道定まりてふりよき所也。能々鍛錬すべし。
ゴルフに置き換えて現代語に訳すとこうなる。
ゴルフの道を知るということは、薬指と小指の二本の指で締めてグリップして、クラブの道筋(軌道)を正しく理解すれば自在にクラブを振ることができるようになるということだ。速く振ろうとするからクラブの道筋(軌道)の逆らって振ることになり、結果的にスイングを壊してしまう。クラブは振りやすいように静かに振ればよい。短い棒を扱うように速く振ろうと思うから、道筋(軌道)に逆らって振れないのだ。それは小刀きざみと言って、シャフトの長いクラブでは先にあるボールを上手くとらえることはできない。
アドレスから自然にクラブを上げて収まりのよいバックスイングを行い、大きく肘を伸ばして強く振るのがゴルフの道である。
わが一流の「五つのおもて」の形で練習して覚えれば、クラブの軌道が安定して振りやすくなる。よくよく鍛錬するべきである。
五輪書では続いて「五つのおもて」の次第として、中段・上段・下段・左脇・右脇の五方の構えからの遣い方が示される。ゴルフで言えば、四つのライ(左足下がり・右足下がり・つま先上がり・つま先下がり)に相当すると考えることができる。さらにゴルフにはクラブの種類(ウッド・アイアン・ウェッジ・パター)が関わってくるが、それは兵法でいうところの太刀、小刀、槍、長刀などにあたると考ればしっくりくる。
相手を切って殺傷する目的で刃のついた長い棒を振る極意と、球をクリーンにとらえて狙い通りに飛ばす目的でヘッドのついて長い棒を振る極意が共通であることに何の不思議もない。具体的経験知の積み上げから研鑽された技を見事に抽象化して分かりやすく表現するという点で、武蔵は剣豪であり、優れた書家・画家であったと同時に極めて優秀な学者でもあったといえる。
武蔵がオーガスタで大活躍する姿を見てみたかったと思うのは私だけではないだろう。そして、片手打ち練習の意味がようやく理解できたのも武蔵のおかげだ。