北村 禎宏

2019 30 Apr

神大MBA30th

 平成もあとわずかとなった28日に、神大MBAの30thアニバーサリーの記念講演が催された。基調講演が加護野忠男先生と三枝匡氏の超豪華な顔ぶれだったこともあり、数百名の参加者を迎えて盛況であった。

 加護野先生からは、初年度のスタディツアーのお話があった。モンテカルロで貯金してFIATのミドルとディスカッションする旅だったという。添乗員がパスポート入りのカバンを盗まれて、以降は先生がツアコンを果たしたとのこと。

 6年後の私たちの代はソウルにスタディツアーを組んだ。ウオーカーヒルで貯金をするという行動パターンは加護野ゼミの伝統だ。ホテルのテレビで目にした地下鉄サリン事件の映像が忘れられない。何より、1月には阪神淡路大震災により修士論文の仕上げがほとんど手付かずになる波乱も経験した。製品のイノベーションから顧客価値のイノベーションへと体重を移さなければならないという議論が展開された。モノからコトというわけだ。洋服を作って売っている場合ではないことは重々承知しているものの、して何ができるのかは悩ましいところだ。

 三枝氏は3年ぶりの生講演で、当時よりもさらに切れ味鋭い磨き上げられた議論が展開された。フレームワークと因果律のロジックはそのままに、日米のシーソーゲームを60年遡って見事に整理がなされていた。V字を果たした米国と崖っぷちから転落した日本と、そのコントラストは鮮やかであるとともに、何が起こったのかに関する分析も極めて明瞭かつ的確だ。

 第1の米国による日本の強さの読み取られは、すでに60年代に起こっていた。マーケットシェアの価値と成長率の重要性、経験曲線を辿ってコストと価格がどう動くのか、そして借金経営を厭わずキャッシュフローを梃子にする。はじめてそのことを知らされた米国の経営者の反応は口を揃えて「ウッソー」というものだったそうだ。

 第2の読み取られはカンバン方式だ。在庫極小化と理解している日本人が少なくないが、その実態は時間の戦略である。それを見抜いて世に出たのがタイムベースマネジメントであり、そのさきにBPRという概念が提唱された。在庫の問題ととらえると製造業以外は我関せずとなりかねないが、時間の問題であればあらゆる業種業界が対象になる。実際米国では、物流、郵便、建設、そして病院にまで導入されたという。在庫に限らずあらゆるリソーセス(人や工程も含む)がシンクロして遊んでいる時間が極小化されている状態を目指すのがエッセンスだ。スピードの経済性は直球で手に入り、変化球で範囲の経済性もゲットできる可能性まである。

 歴史の教訓として、1.経営の知的創造で負け、2.個人の経営的力量で負け、3.時間戦略の実行で負け、スモール・イズ・ビューティフルの組織設計で負けの手痛い四連敗を喫したのが我が国の惨状である。

 だから、それを逆にリバースすることが必要だと三枝氏は力説する。すなわち、スモールを実現しえ時間戦略を実行する。そして、個人個人が経営的力量を涵養し、経営の知的創造に邁進する。この処方箋しか日本が這い上がる道筋はない。

 パネリストに「ヤフーの1on1」著者もいらっしゃったので、パネルディスカッションも楽しませてもらった。三枝氏からのコメントは実務家としての叱咤に近いニュアンスが
感じられて、三人のパネラーもたじたじであった。加護野先生のソフトなアカデミックな問いかけがなければどうなっていたことやら。

 10年前の20thでは、不肖私めが金井先生の進行の下パネラーの大役を仰せつかったが、時間の流れもさることながら、レベルの飛躍的向上には驚かされた。6期生の私たちのころは大学院側も学生の側もよちよち歩きの試行錯誤であったが、そこから20数年ものすごい勢いで進化が加速している。ここにも収穫加速の法則があてはまり、どのあたりでシンギュラリティが訪れるのだろうか。個人の経営的力量の向上が少しでも図れるよう、微力ながら人材育成を通じて貢献できればと決意を新たにした。