北村 禎宏

2020 25 May

オンライン学習

 オンライン学習の導入と拡大が必須の社会情勢となったが、教える側、教えられる側の双方に越えなければならない壁がいくつもある。

 先週、「クラス全体の議論」「グループに分かれてのグループディスカッション」「1on1での個別指導とフィードバック」のすべてのオペレーションが一日のカリキュラムを通じて混在するオンライン研修をはじめて経験する機会に恵まれた。そこからわかったことを共有したいと思う。

 数名によるグループディスカッションと1対1の個別指導は、リアルな場と比較してまったく遜色のないクオリティとスピードで進めることができる。ホワイトボードの周りでの立ち位置や一挙手一投足から得られる立体的情報こそ損なわれてしまうが、それ以外で失うものはほとんどない。ホワイトボードへ手書きしながらの議論も捨てがたいものがあるが、オンラインで共有ファイルをリアルタイムで加筆しながらの議論もストレスなく展開されていく。

 1on1では、講師側が手元の紙に手書きしながらヒントや事例を示すのが常であるが、オンラインでは丁寧に口頭でガイドしながら受講生側が手元のファイルに手を入れていくという進行になる。ファイル上では任意の複数の対象をいっぺんに削除したりコピペできるのでむしろ受講生の個人ワークの質は向上する。

 受講生の反応から板書したいことが出てたら、手元で打ち込んで共有ファイルで示せばそれで済む。定番的引き出しや込み入った情報の場合には、あらかじめパワポで作成しておいて、適宜画面共有していくことでカバーできる。その分、必要とされるであろう引き出しを予め出し尽くしておいて準備しておくというプラスαの事前考察と作業の負荷が増えることになる。

 以上がn数は限られているもののオンライン研修の様子であるが、受講生に一定の条件が整っている場合には再現性が高いと考えて差し支えない。その条件とは、受講する側に内外の人々と社会人として相互作用した経験が一定程度あること、モチベーションがかなり高い次元にあること、ITリテラシーとりわけパワポの扱いに慣れていてブラインドタッチでキーを操作できることだ。一定程度の経験とは、対面で商談や会議を行うことに加えて、電話、メール、ファイルの受け渡し、TV会議などあらゆるコミュニケーションのツールと場を複数回経験していて、それぞれのメリットデメリットが体で理解できていることを言う。

 モチベーションは自ら手を挙げて少なくとも給料を得ている仕事という認識で、できればさらに高みを目指すという志がともなっていれば申し分ない。ITリテラシーには、安定して十分な容量が確保できる通信環境も含まれる。このように考えてみると、一部の社会人に対しては十分なオンライン学習の効果を担保することが可能だと言い切ることができるが、大学生、高校生、中学生、そして小学生と学年を下るにしたがってハードルが高くなっていくことは明らかだ。

 端末の有無はそもそもの出発要件であるが、安定した無線LANや有線LANがすべての家庭にあるわけでなく。教える側にも様々なリテラシーが求められることも言うまでもない。
これを機に自身の授業や講義のありかたを根本から問い直して対応しようとしている教員はまだまだ少数派であろう。

 もはやとりもどすことはできない旧き慣習を捨て去って新しい様式をどれだけ身にまとうことができるか、教育現場に限らずあらゆるビジネスの領域で求められていることだ。何の心の準備もないまま別世界に放り込まれた私たちであるが、世界中の皆が等しく同じ境遇にあるので誰を恨んでみても仕方がない。個人も組織もまさに器が問われている。