北村 禎宏

2020 20 Aug

三つのバランス

 科学(サイエンス)と政治(ポリティクス)との距離間や相互作用がデリケートな問題になっている。それに、産業(ビジネス)も加えて、三位の関係性が問い直される時代になった。

 科学は真理を究明してそれを説明するのがミッションだ。政治は、真実を押し曲げてでもゴリゴリ前に進む宿命なのか、モーメントなのかそれらしきものを帯びている。ビジネスは、永らく信じられてきた利潤追求という究極の存在意義に疑いの目が向けられ始めて、サステナブルがもてはやされている。伝統的な経営学の教科書でいわれてきた“ゴーイングコンサーン”を現代風に言い直した概念だ。

 組織論の大家ミンツバーグは、マネジメントの三角形として、「アート」「クラフト」「サイエンス」を挙げた。アートは創造的発想を駆使してビジョンをクリエイトするような、マネジメントに理念と一貫性をもたらすもの、クラフトは経験をベースにした現実に即した学習の結果身に付いたもので、マネジメントを地に足のついたものにする、サイエンスは分析的アプローチにより到達した体系的ロジックを通じてマネジメントに秩序をもたらす、と。これらの三つの異なるディメンションを適宜駆使しながら実践の行為を展開することがマネジメントだとミンツバーグは言う。

 さらにミンツバーグは、マネジメントの構成要素を「情報の次元」「人間の次元」「行動の次元」の三つで定義する。冒頭にあげた科学はミンツバーグのサイエンスにそのまま当てはまる。クラフトはまさにビジネスそのもの、それらに理念と一貫性を与えるアートの役割が政治だと考えることができる。

 三要素においても、上手く説明がつけられる。すなわち、情報の次元を担うのが科学、人間の次元を通じて人々や社会を導くのが政治、そして行動の次元で実行することが産業や、それに携わる人々の役割だと言える。

 科学と政治がぎくしゃくしていては、秩序が乱れ、理念や一貫性が損なわれる。情報の次元が開示されなければ、人間の次元と行動の次元が機能しない。情報の次元に蓋がされて、人間の次元が恣意的に取捨選択されてしまっては、行動の次元に歪が生じることになる。
新しい感染症の発生と蔓延は自然現象にもとづく災害に過ぎないが、この構造的はゆがみがもららす結果は人為的災難だ。

 シベリアでは、人為的温暖化の進行がなければ8万年に一度しかない高温に見舞われているという。
中国やインドでは、昼も夜も空が晴れ渡っている。経済は発展するべきもの、文明は謳歌すべきもの、働かざるもの食うべからず等々、ありとあらゆる20世紀型のパラダオムが消費期限を過ぎたようだ。

 選挙に勝つための徒党ではなく、新しい社会を標榜する徒党を組む人々は出てこないものか?表舞台では見えにくいが、小さいながらも様々な息吹がいろんなところから聞こえてくるのがせめてもの救いだ。