北村 禎宏

2020 04 Feb

送料の難しさ

 楽天の三木谷氏は送料無料の取り扱いについて公取とがっぷり四つに組む強い心意気だ。

 リアルリテールvs通販という競争スキームだった以前なら、次のような申し合わせが成立していた。街の有店舗のレジで往復の電車代を要求する消費者は見たことも聞いたこともないし、万一そのような要求があった場合のやりとりは明らかだ。お店は、当店を含むこの近辺に来られたのはお客様の意思とリスクであり、お客様の電車代は当店でのお買い物以外の便益にもつながっているので肩代わりさせていただく立場にはございませんと。

 通販企業が負担するのは商品の送料だけではなく、システムやコールセンターを含むフルフィルメントコストの負担は決して少なくない。それらのコストと不動産費用がうまく見合えば通販に経済的メリットを見出す可能性が出てくる。

 さらにコストには売上金額に従量性でチャージされるものと、トランザクションに従量しているものが混在している。前者の代表がクレジットなどの決済手数料であり、後者の代表が物流コストだ。代引き手数料は両方の顔をもっている。代引きの上限はいまでも30万円のはずなので、その金額の買い物はクレジットではなく代引きでやってくれると企業側は助かる。その一方で数百円数千円も下の方であれば、代引きよりクレ等の方がありがたい。

 高級大人服であれば、物流コストが最少の個口パッキンに数十万円の商品を入れることができるが、安価な子供服だと数万円分も梱包することは困難だ。楽天が真っ向勝負に出ざるを得ないのは、いまやリアルなど眼中になく、ECvsECの熾烈な競争の中で打倒アマゾン、いやアマゾン独り勝ちの潮流に取り残されてはならないという強い危機感があることは想像に難くない。

 アマゾンのプレミア会員制度は、いわば付加サービスのサブスクのようなもの。プラットフォーマーとしてBとCの間にオペレーションレベルでしっかり入り込めているアマゾンと、取引の仲介にとどまってしまっているモールとの差は決定的に大きい。

 サブスク的経済システムを内在した資本主義は社会主義的な資本主義であると考えることも可能だ。完全自由競争から、税金のようにいくらかを出費すれば公共の福祉に相当するような経済的サービスや還元を享受できる仕組みは決して悪くないどころか、多くの人々の支持を得て拡大している。

 もともと独禁法は原則自由の経済システムに公権力が歯止めをかけるという自己矛盾的側面を内在したデリケートな法令である。資本主義がその姿かたちを微妙に変え始めたいま、攻める側も守る側も戦い方のクリエイティビティが問われている。