北村 禎宏

2020 01 Feb

むかしトイレットペーパー

 その昔トイレットペーパーで、今はマスクが店頭から消えてなくなった。

 その昔とは1973年の第一次オイルショックのときのことで、ネットもSNSもない社会環境ではあったが、新聞の見出しを媒介にしてあっという間に風評が広がってえらい騒動にまで発展した。当時の裏事情として、小売店頭からは一時的に在庫がなくなったがメーカーや流通過程には十分な在庫があり、実体のない100%の風評による大衆の暴走が引き起こした一種のパニックであった。当時の我が家は落とし紙を使う環境だったので、「へーっ!!」とTVの画面を通じて血走った主婦たちを見ていた記憶がある。

 今回のマスクは実体としての在庫が枯渇している。二週間で一年分が売れればそうなるわな。ネット上ではカスクが数万円の値段をつけてアップされている。アパホテルのプライシングには賛否両論があるが、価格は需給バランスにより決定される資本主義の下では、あたりまえの現象として冷静に受け止める必要がある。

 わが国でこのありさまなので、当事国の中国の惨状は押して知るべしだろう。自警団のような人々がマスク未着用の市民を取り締まっていると聞くと、思わず鳥肌がたつ。

 我が家には、ヨドバシからマスクが普通に普通に宅配された。お取り寄せ扱いで数日を要したが、プレミア価格がついているわけではない。恒常的に1~2か月分の備蓄はしてあるが、これで今シーズンの在庫はリカバーしたとの家内の弁。

 トヨタ生産方式で完成した、オンディマンドですべてのモノが滞りなく流れてどのプロセスにも余剰在庫がないサプライチェーンは平時には最大効率をもたらしてくれる素晴らしい思想でありシステムだ。ただし、有事になった際にはそのチェーンは破綻する。

 遊びと余剰は必要悪ではなく必要善であると私は考える。人材の遊びと余剰を徹底的にそぎ落としている企業も有事には危ない。

 95年の震災当時、手書き伝票で受注データを再現して、人海戦術で手出荷を余儀なくされた95SSの出荷現場において大活躍したのは、台頭しつつあったSPAビジネスからは蚊帳の外で卸ビジネスしか知らないけれどアナログで手も体も動く大先輩諸氏であった。