北村 禎宏

2019 09 Jul

今どきのキーワードは

 少し前の日経ビジネス誌上新規事業の落とし穴につながりかねない今時のキーワードが特集されていた。それらは「フリーミアム」「サブスクリプション」「シェアリング」「インバウンド」の四つだ。

 フリーミアムとサブスクリプションは課金のシステムに関する経済構造的ビジネスモデルのイノベーションにあたる。伝統的な1対1の物金等価等金交換社会に颯爽と登場した“ゼロックス”モデルがその走りと言えようか。その究極が、何かを無償にすることで爆発的すそ野を確保して、ほんの0.2%ほどの超ヘビーユーザーからマージンの大半を徴収するビジネスモデルだ。

 小売業界においては20:80の構造が当たり前とされて久しいが、0.002:80の構造には恐れ入るものがある。すそ野が百万人単位になれば1000人に二人のレア個客も馬鹿にならない。サブスクリプションは飲食業界において新風を巻き起こしたが、アパレルではどうもうまくいかないようだ。飲食には時間と空間を提供する価値が含まれており、純然たるモノの提供しかできないアパレルにはそぐわないということか。

 シェアリングはファッション製品においても普及の風を感じるが、車などの耐久消費財や不動産には一定の存在意義を見出しやすいが、日常的消耗品の側面もあるアパレルにはどの程度の親和性があるか疑わしい。年に何回もない二次会や謝恩会におけるバッグには可能性を見出すことができるが、サイズが問われるドレスや靴においてはどのくらいの発展性があるか、これも疑わしい。

 インバウンドは唯一マーケットセグメンテーションにまつわる議論だが、このサイクルタイムはおよそ3年だったようだ。根源的ビジネスモデルの耐用年数はおよそ30年くらいはあると超乱暴に言い表すこともできるが、剣山型のマーケットの嵐はたった3年で過ぎ去るのだろうか。

 爆買いの嵐は去ったものの、着実にインバウンドの支持を得ているブランドも少なくはないが、多くのファッション産業にとってこれら現代的キーワードからはそれほどの恩恵を被ることはなさそうである。

 時代の流れに取り残されたレガシー業界に成り下がってしまうのか、突き付けられた課題解決の道のりは平坦ではなさそうだ。