北村 禎宏

2020 18 Jun

不連続の変化

 プロ野球の開幕も間近となり、経済活動の再開も徐々に進みはじめた。インターナルではオフィスワークの在り方が大きく変化した。エクスターナルでは、飲食業や小売業などの近距離での接待や接客を伴う業態の有り様も大きな変化を迫られている。

 アクリル板などで間仕切りが施されたカウンター席。テーブルを間引く、二つのテーブルをくっつけて着席者が大きな間合をとることができるレイアウト。いたるところで様々な工夫がなされている。満席に近い稼働率を前提に成立してきたビジネスモデルの経済構造が根本から問い直されている。プロスポーツをはじめとするエンタメ産業もしかり。

 オンラインで顧客からの受注をとった上での生産にトライするアパレルも出てきた。ファッション業界におけるSPA化とEC化は四半世紀の間に猛スピードで進展した。スピードこそ指数関数的にアップしたが、軌道はあくまでも従来のビジネスモデルの延長線上だった。意思決定の時期がひきつけられて、確度は上がったものの、売れるであろうとの目論見に基づく見込み生産がSPAの正体であり、おのずとそこに限界もあった。

 上代が下がり続ける中、売上を額として維持したり伸長させなければならない各社が量に走った結果が今の業界の現状である。「売り足」しや「追加企画」「追加生産」などの美辞に酔いしれてはいたものの、それらはすべからくイリュージョンに過ぎなかった。そもそも、売れる前に作る必要があるのか。
売れるかどうかわからない商品を店頭にフルSKUで在庫することの功罪は何なのか。これら根本的問いを徹底的に突き詰めていき、軌道を逸する別のビジネスモデルに到達しなければならない。

 好むと好まざるの現状が大きく背中を押すのは間違いないと思われる。SPA化という中範囲のイノベーションに成功した企業がそれを体現することになるのか、はたまた全くの異種異業態からそのうねりはやってくるのか。いずれにしても数十年から百年単位のスパンで訪れるパラダイムシフトに相当するグランドセオリーの書き換えはそう簡単なことではない。

 巨大なモーメントに抗いながら、見たことも聞いたこともない新しい世界を創造する、いわばデザイン思考的スキルはあまり馴染みがないからだ。SPA化に関しては多くの事例をご一緒させていただいてきた。新しいビジネスモデルのデザインに少しでもお役に立てる機会があればと願っている。