北村 禎宏

2017 29 Nov

何が起こっている?

 日本企業の足元で確実に好ましくない情況が深く静かに浸透してしまっているようだ。三菱自動車の燃費不正問題から日産自動車、マツダの無資格者による検査問題と続いて、自動車業界が抱える何かがあるだろうか…という漠とした印象を抱いていた。
 その後、神戸製鋼所の品質データ改ざんが発覚し、三菱マテリアルから東レにまで飛び火してしまうと、これはもう日本の製造現場が何かの悲鳴を上げていると考えざるを得ない。

 山根一眞氏が「メタルカラーの時代」を連載したのは、91年から07年のことであった。亜パーキンソンの法則の一つに新本社ビルの法則というのがある。急成長した企業は、新本社ビルの計画がスタートした時点で足元の既存ビジネスモデルは根元の部分は腐敗し始めているが、それは予兆に過ぎず地上茎では顕著な変化を認識することはできない。そしてビルが竣工してしまうと時すでに遅く、腐敗は地上茎をも浸食しはじめており崩壊を免れることはほぼ不可能に等しい。

 亜法則のさらに亜で言うと、メディアに活字でもてはやされるようになった瞬間、地下茎の腐敗は始まりかけていて、もはや活字が追いかけなくなったところが、それがもはや地上茎に到達した証となるという法則だ。失われた10年と言えばバブル崩壊以降93年から02年までの不況期を差し、失われた20年と言えば91年3月以降を差すという通説があるが、まさにそれらの時期は山根氏の連載時期と一致する。

 もう少し俯瞰してみると、50年代~60年代の朝鮮戦争特需から高度成長期にわが国の経済、主に製造業は急成長を遂げた。安かろう悪かろうと揶揄されたメイドインジャパンは、70年代には世界に誇る高品質を手に入れることに成功した。その時期の大きなドライバーは製造業すなわちモノ作りの現場であったことは間違いない。

 バブルに浮かれた80年代には、流通・サービス業が台頭し、エスタブリッシュメント企業は本業とは無縁の多角化や不動産投資に狂騒した。その間に「何故にジャップごときに…(怒)」と本気になったアメリカはトム・ハウトとジョージ・ストークをして、日本人が本気で勉強することを怠った“時間の戦略”を我がものにして息を吹き返すことに至る。

 伊丹敬之氏(日本の経営を創る)によれば、80年代後半にはじまった日本的経営の劣化は三点あるという。第一は国全体の年齢構成の休息な高齢化がはじまったこと、第二はお金が貯まったことによる驕り昂ぶり、第三が鍛えられていない人々が経営者になってくる企業の比率が高まったこと。

 その後、いずれの観点も加速することはあれ、改善の兆しはまったく見ることができない。ここ30年で日本企業はすっかり劣化してしまったのだ。経営者は桁落ちし現場は疲弊の極みにあるのが残念ながらわが国の多くの企業の実態だ。

 アパレルで気を吐くZOZOやマッシュ、TOKYO BASEなど新興勢力はすべて21世紀型の起業と歴史なので、加速し続ける上記三点をものともしない。RIZAPなどもそのカテゴリーに属している。

 歴史ある重厚長大起業は、その歴史的宿命から逃れるには三枝匡氏の言う、不必要な外科手術ではない「切断力」が不可欠だ。新興勢力もいずれ歴史を蓄積し、デモグラフィックストラクチャーは変化し、加速度的に経営にも現場にも驕り昂ぶりが増殖するリスクにさらされる。まさに歴史の輪は永遠に回り続ける。