北村 禎宏

2017 18 Nov

右側の壁

 一週遅れの情報になるが、セブンイレブンの連続増収増益が62ヶ月でストップし、セブン「再スタート」との見出しが躍った。

 前後して、不振の千趣会、脱「衣料」ということで、104億の最終赤字が報道された。ここで頭に浮かぶのは「右側の壁」である。

 IT用語として有名な“ムーアの法則”は、今やICT用語としてカーツワイルの“収穫加速の法則”に置き換えられた。収穫加速の法則は、指数関数的変化を辿る現象において時間的中央値に至るまでの変化率は一次関数にはるかに及ばないにもかかわらず、いざそこを通過して、やがてシンギュラリティ(技術的特異点)をむかえた瞬間、変化はほぼ垂直に近い猛スピードで進行していくことを表している。

 右側の壁とは、競技人口もプレーヤーの鍛錬度も緒に就いたばかりのスポーツにおいて、はじめのうちは見る見る新記録が塗り替えられていくが、
やがて成熟期をむかえると、大幅な記録更新どころか記録を打ち破ることさえ困難になる見えない壁が右側に控えているという法則だ。

 指数関数の収穫加速に対して、対数関数的に収穫がシュリンクして、いずれは頭打ちになるという変化曲線ということになる。

 5万店舗と10兆円を超えたコンビニ業界が、未来永劫伸び続けるわけもないことは自明のことだ。かつて、紙媒体通販しかなかった時代に、ゼネラル通販が割拠する中、ファッションという付加価値を演出して一線を画した千趣会の栄光も過去のものとなったのか。

 140兆円ほどある小売市場が人口現減少経済の下、何年でどれくらいに縮小していくのか予断を許すことはできない。アベノミクスはまやかしのミクロ事象に過ぎず、ユリノミクスにいたっては泡になる前に消えてなくなってしまった。

 太陽には、その寿命あと50億年という科学的にリアルな右側の壁が存在する。当然地球は太陽と運命をともにするほか選択肢はない。その地球上に棲息する人類は、知らないだけで見えないだけで確実に右側の壁に近づきつつある。

 経済もビジネスモデルも着実に右側の壁に向かって漸進しているのだ。漸進は対数関数の後半戦だが、指数関数的に加速する変化は一気に壁に激突するのか、
それとも壁を突き破るほどのパワーがあるのか。

 是非とも見届けたいところではあるが、ICTのシンギュラリティと余命とが追いかけっこになるのが悩ましい。