北村 禎宏

2019 06 Aug

「持っている」の三乗

渋野日向子の勝ち方は凄いものがあった。

 日の丸を背負った選手たちが、その重みから自ら崩れ去っていく光景は何度となく見てきた。
スキージャンプの彼女の若かりし頃しかり、水泳男子でモチベーションを見失った彼しかり、古くは自ら命を絶ったマラソン選手もあった。

 ゴルフのメジャー大会が日の丸を背負っているわけではないが、42年ぶりという周囲の騒がしさはやかましいくらい伝わってきていたものと想像される。画面から伝わってきたのは、心底ゴルフを楽しんで自分らしくプレーしている姿だった。カメラに対するスマイルサービスといい、駄菓子をほおばる愛らしさといい、天真爛漫の凄みがビンビン伝わってきた。

 3パットが許せない性格にもかかわらず、4パットにも切れない、めげない姿勢は、トリプルをたたいた瞬間ブチっときている私たち素人ゴルファーがどこまで見習うことができるだろうか、

 平成生まれの次世代の人々は、天性も価値観も大きく様変わりしていることを痛感させられる出来事だった。企業には文化としても世代としても昭和の匂いが色濃く残存している組織が少なくない。たとえば、働き方改革と言ってもそれを昭和の目線から眺めていては、いまの人々の気持ちもわからなければ、ましてやグッときてもらうにはほど遠い事例が散見される。時代も人々も別次元の別世界に突入しつつあることをどれほど真摯に受け止めることができるかが問われる。

 渋野は間違いなく「持っている」。初優勝直前にスポンサーとなったビームスという会社も「持っている」。そしてビームスゴルフを支える責任者の方々も現場を守るスタッフの方々もみんな「持っている」。持っているの三乗は、それはもう勢いを止められないだろう。

 昭和に蓄積した「持っている」を平成のフィルターでふるいにかけて、令和バージョンにグレードアップして引き継いでいくことができるかどうか。私たちの責任は重い。