北村 禎宏

2020 17 Apr

数理で考えると

 緊急事態宣言が全国に拡大された。全国により強力な引き締め効果をもたらす肯定的声と焦点がぼやけてしまいかねないという懐疑的声が混在する。

 三密を避けるというメッセージは超ミクロな場や空間に対する警鐘として機能する。都道府県別の感染者の増加トレンドの分析は指数関数的拡大の臨界点すなわちシンギュラリティが近いことを示唆してくれる。その一方で国ごとや都道府県ごとの横比較については、絶対数の単純比較を超える有意な分析があまり表に出でこない。

 そこで、単純な一次分析を施してみた。都道府県別の人口、人口密度、感染者数を相関分析すると、人口と感染者数の相関係数は0.89、人口密度とは0.92という結果が得られた。前者は相関して当たり前の現象なので係数が1に近いことに何の含意もない。後者は決定的な要因が人と人との密接度合いであることを
如実に示している。

 感染者数降順でデータを並べてみると、人口密度のそれと見事なまでに合致している。しかしながら係数が0.9強ということは1割ほど説明できないサンプルがあることになる。人口密度の割には感染者数が多い都道府県として目立つのは、北海道、石川県、岐阜県、群馬県、福井県、山形県、福島県などだ。7都府県に準じるとされた地域とかなり重なりがある。その逆に、愛知、沖縄、滋賀、奈良、静岡などは人口密度に比して感染者数の割合が比較的低位に位置付けられる。

 ここからが二次的分析に向けた仮説の構築となる。感染拡大は基本的に人と人との密度が濃いエリアで進行していく。北海道で道レベルでの人口密度を変数にするには無理があり人口動態的地勢の状況を別途データー化する必要がある。もう一つ重要になってくるパラメーターは、人口密度の高い地域との交流密度だ。

 もともと人口密度がそれほど高くない福島、群馬、山形、石川、福井などの外れ値は、東北新幹線や北陸新幹線などの大動脈を介して人が交流している可能性が高いという仮説を立てることができる。北陸新幹線が通じている岩手はどう説明するのかというと、1時間程度の日常的移動ではなく3時間近い非日常的移動との間には人々の行動のキャズムがあるとすれば納得できる。岐阜については、名古屋側との交流よりも福井、石川との行き来が影響している可能性があるが、より深い考察が必要だろう。

 本来であれば自由に国内のみならず世界中を闊歩していたであろうGW時期に人口密度が高いエリアと低いエリアとの人的交流をどれだけ皆無に近い最小限にとどめることができるのかが正念場だ。地方が都市部からの疎開移動に待ったをかけるのも当然のことだ。3月には一度大片付けに実家の岡山に帰省したが、今はいくら時間を持て余してもそれは兵庫県在住者としては抑制せねばと踏みとどまっている。

 米国の60万人は、人口の0.2%すなわち500人に一人というオーダーに到達している。わが国のおよそ1万人という数字は、0.01%(一万人に一人)で米国とは約20倍の差がある。検査の母集団の多寡を加味すると、わが国での感染者は少なくとも二倍、多く見積もれば数倍はいると考えなければならない。5倍とすれば2000人に一人ということになる、

 オフィスワークを中心としている多くの大企業ではテレワークが定着したが、中小企業や現場業務ではそういうわけにもいかず、未だ多くの人々が公共交通機関を使って通勤している。2000人と濃厚接触すれば100%感染するという数理を頭にいれて全国民が慎重に行動しなければならない。