北村 禎宏

2020 08 May

アフターの予兆

 米国でJクルーが2100億円の負債を抱えてチャプター11の申請をして経営破綻したと報じられた。アマゾン・エフェクトにより体力が低下しているところに、今回の新型コロナが追い打ちをかけた。

 ギャップは店舗賃料の支払いを停止し、JCペニーやニーマン・マーカスも破綻申請を検討しているとのこと。米国に元号は関係ないが、私たち日本人にとってはいずれも昭和の頃から、もしくは平成時代に名を馳せた錚々たる企業ばかりだ。

 昭和から平成を駆け抜けたレガシービジネスモデルは、そうでなくても青息吐息で崖っぷちに立たされている折も折、平時であれば有り難い追い風であるが、竜巻級の追い風が突風として襲い掛かってきてはひとたまりもない。企業名をあげることは控えるが、ファンドとの主導権争いに忙しい某社をはじめ退場間近のファッション企業は少なくない。

 アフターがいつ訪れるかは未だ定かではないが、アフターがどのようなものなのかはおおよその見当がつきはじめた。新しい生活様式というやつのビジネスバージョンだ。人が対面で長時間接したり大勢が集中するビジネス様式は忌避しなければならない。セルフもしくは遠隔でトランザクションが完結するビジネスのありようが急速に拡大し普及していくのだろう。

 悲しいかな、新しい生活様式のスポーツバージョンも必要だ。スポーツを趣味で楽しんでいた分には何とでもなるが、多くのスポーツがビジネスとして社会に定着した現代社会においては深刻な問題だ。人が直接ぶつかりあうことを選手の生業とする1on1、nonnは多くのスポーツの基本形だ。人同士が疎でも成立する競技は、スキーのジャンプやボッチャなど数えるほどしか頭に浮かばない。

 場所効率を最大化することを是とする観客席は密集の極地となるし、限られた特定の時間に多くの人々が集中する化粧室や売店も最悪の環境になる。いずれ2000年を超えて共存し続けているインフルエンザのような存在になっていくのだろうか。

 基本再生産数という初期値が少しでも上振れすれば、一気に収穫加速が進行する。
六次の隔たりしか有さないスモールワールドに住んでいるのが私たちだ。基本再生産数が1を超えた状況で普通の生活を謳歌してしまうと瞬く間に感染が世界中に拡大してしまうことになる。多くの犠牲者を伴っていち早く集団免疫を獲得する作戦には誰もが諸手を挙げることはできない。

 というわけで、とりあえず一年後の開催で決着したTOKYO2020もサンクコストとして放棄しなければズルズルと駄々洩れをした挙句に、やっぱりできましぇんとなりかねない。ナウをせき止める動きとアフターを冷静に考える思考の両立が求められている。