上野 君子

2018 23 Sep

築地市場見学で感じたこと

海の近くで(といっても海の音が聞こえる程、近くではなく、遠くに見えて風を感じる程度だが)、海で採れたおいしい魚を食し、常に海を感じる場所に住むようになったせいか、ぜひ一度行ってみたかったのが築地市場。

1010日に近づいた豊洲への移転前のタイミングを逃す手はないと、ちょうどご主人が市場で仕事をしている知人と前々から企画を練っていたのだが、それがついに先週の9月半ばに実現した。

 

学校の後輩であり、某出版社月刊誌の編集者で、公私ともに以前からつながりのあるその知人は、多忙な毎日を送っているのだが、年下のご主人の仕事への深い理解と愛情に満ち、時々、市場を案内するという役を買って出ているらしいことにすっかり甘えてしまった。

またとない機会のために、単なる観光気分ではなく、それなりの知的見識とグローバルな体験を持つ友人3人に声をかけ、総勢5人で市場を回った。

 

当日は、あの有名なマグロの競りの最終日と報道されていたが、それは早朝のことなので、私たちが見学した11時過ぎは、場内はすっかり後片付けモード。

それでもまだ朝の余韻が濃厚に残っていたし、そこで働く人たち(意外に若い人も多かった)の息遣いのようなものは十分に感じられた。

観光客でにぎわう場外(小売店が立ち並ぶ)に対し、(仲買人・仲卸が軒を連ねる)場内はまた雰囲気が異なる。とにかく広い。知人の案内がなければ、効率的に全貌を見るどころか、きっと方向も見失って迷ってしまっていたことだろう。

そして、600を超えるといわれる仲卸は、店のサインも作りも個性的。

 

ご夫婦推薦の『アースダイバー・東京の聖地』(中沢新一著)を事前に読み、日本における魚市場の歴史とその神髄のところをザっとおさえておいたのがよかった。著者がいうところの「日本人の伝統的思考が凝縮されている」というのが肌で感じられた。

早朝の競りで漁師や漁業関係者から魚を仕入れ、それを各種小売店へと販売している仲卸は、繊維・ファッション産業でいうところの問屋やアパレル企業。商品を売るというだけではなく、魚の知識のみならず、用途や料理の仕方、広くというと食文化を伝える役割を果たしている。つまり「目利き」、その道のエキスパート。日本独自の流通の伝統がここにあるのだ。

場内の機能が豊洲に移転することによって、何がどう変わっていくのか、そういう時代のうねりを私たち消費者もしっかり見届ける必要がある。