宮田 理江

2019 26 Jan

マルタン・マルジェラのドキュメンタリー映画が公開 『We Margiela マルジェラと私たち』が明かすクリエーションの秘密とは?

ファッションデザイナーの伝記映画が相次いで公開されています。主人公になったデザイナーのうち、最も謎めいた人物と呼べそうなのが、メディアに露出しない態度を貫いたMartin Margiela(マルタン・マルジェラ)氏でしょう。2019年2月8日(金)に公開されるドキュメンタリー映画『We Margiela マルジェラと私たち』は、姿を見せないデザイナーの実像と、そのクリエーションの秘密に迫った作品です。

先に申し上げますと、この映画でもマルジェラ本人ははっきりと姿を現しません。しかし、大勢の関係者がマルジェラの仕事ぶりやキャラクターについて語ってくれるので、イメージが浮かび上がってくるかのよう。

 

マルジェラは正体を隠したから評価されたのではなく、あくまでもそのクリエーションの創造性が特別だったので、スターデザイナーと認められたのです。「解体」という手法に象徴される、コンセプチュアル(哲学的)なモード表現は今なお特別な存在であり続けています。

 

エッジのきいたアプローチのイメージがあるせいか、1人で仕事に取り組んでいたイメージを持たれがちですが、実際は違っていました。信頼するメンバーとチームを組んで、コレクションを生み出し、ビジネスを動かしていたことが数々の証言から分かります。映画タイトルに「私たち」を意味する「We」が選ばれているのも、マルジェラが「We」と呼んだ仲間たちとの結び付きを感じさせます。

 

デザイナーの伝記映画ブームを呼び込んだイヴ・サンローランもそうでしたが、「天才」と呼ばれた創り手にはプレッシャーと孤独がつきまといます。マルジェラも例外ではなかったようで、彼が約20年間で突然、ファッションシーンを去った事情が、支えた人たちの回想から透け見えてきます。

「シーズン」のサイクル、値札が付く商品性、新奇さへの期待、「情報」として消費される宿命――。デザイナーを悩ませる、様々なファッション界特有の事情は、最も「異端」だったはずのマルジェラさえも追い詰めていきます。

 

匿名性を武器に、ファッション表現の自由を追い求めていったマルジェラは絶頂期での早すぎる引退という選択に至りました。そのDNAはかつての仲間や、続く世代にも受け継がれています。映画はマルジェラが貫いた「志」を静かに語りかけて、ファッションや創り手について、そして、現代のデザイナー事情を考えるうえでも、あらためて立ち止まって考える機会を提供してくれます。

 

1989~2010年にメゾン マルタン マルジェラでセールスマネージャーを務めていたヴィッキー・ロディティス氏がブランド立ち上げ当初、報酬が少なかったなか、報酬よりも欲しいと懇願し、ボロボロになるまで履いた「タビ・ブーツ」が印象的でした。

 

『We Margiela マルジェラと私たち』
2019年2月8日(金)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
配給:エスパース・サロウ
©2017 mint film office / AVROTROS
公式HP:wemargiela..espace-sarou.com

 

こちらは、私も愛用している「タビ・ブーツ」。日本の足袋風に足先が分かれた構造はアイキャッチーなだけではなく、実際の履きやすさが抜群。マルジェラらしさがとてもはっきり表れている名品です。

 


Written By Rie Miyata

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