田中 美貴
「コロナは存在しない」という傍ら、ピッティは1月に延期
9月に予定されていたピッティ・イマジネは来年1月に延期されることになった。延期と言っても、通常1月は秋冬コレクションが行われるので、つまりは春夏コレクション中止、ということである。ピッティ協会は「現時点で確定している参加者数が不十分であること、そしていまもなお企業が置かれている厳しい状況を熟慮」したとのこと。ピッティ・イマージネ協会プレジデントのクラウディオ・マレンツィは「多くの小売業者がオペレーションと経営の両方において困難な状況に立たされ、外出規制をはじめとする国家間の移動に関しても不透明な状況が続いて」おり、これは「海外バイヤーが計画を立てるうえで重大な影響を与え」、「返済義務のない融資を一向に確約しないイタリア政府の姿勢と、トレードフェア参加者に対する、ヨーロッパ全体における経済支援の欠如が出展社の判断を左右した」と語る(プレスリリースより抜粋)。9月のトレードフェア開催の有無は今判断しなければならないので、惜しいところで時間切れ、という感じか。
なぜ「惜しいところ」かと言うと、イタリアはなにしろ今急激に平常に戻っているところなので、決定がもう少し先でよかったらピッティは開催できたのではないだろうか、とつい思ってしまうから。ちょっと前にイタリア人が日本人化していると言う話を書いたのに恐縮だが、直近のイタリアは、“今日生き残ることを目標にして過ごしたあの2か月間”がなかったかのように、もうすっかりコロナ前の様になってしまった(どちらかというと悪い意味で)。アフターコロナは自転車を使おうと言っていたはずが、ミラノの車の渋滞は早々にロックダウン前に戻ったそうだし、マスクをしない人や距離を守らない人も増え、隔離期間中芽生えた助け合いの精神は忘れたかのようにくだらないことで言い争いをしている。そしてそんな雰囲気に経済だけが追いついていないというのに、人々はもうバカンスで頭がいっぱいだ。
そんなムードを後押し(牽引?)するかのように、ミラノのサン・ラファエレ病院のアルベルト・ザングリッロ院長は「コロナウィルスはもう存在しない」と発言しているし、「コロナウィルスでは死なない」「コロナ騒ぎはコンテ政権のでっちあげ」「イタリア・リラを取り戻せ」と言ってマスクなしの密集状態で反政府デモを行う、パリの黄色いベスト運動ならぬ、オレンジのベスト運動まで登場した。これらについては賛否両論で信ぴょう性がどれくらいあるかも何とも言えない感じだが、個人的にはまだまだ気を抜くのは早いのではないか、と思っている。そして、たとえコロナウィルスの脅威が本当にもうなくなったとしても、この経験で何も学ばずに、何もなかったかのように元に戻ってしまっていいのだろうか。公害や渋滞、言い争いや勝手な行動など戻らなくてもいいところだけ昔に戻り、ピッティを始めとする重要なイベントを始め、経済は回復しない・・・こんな不条理に物憂い思いの今日この頃である。
もはや遠い昔のような2020秋冬ピッティ・ウオモ