栗田 亮

2018 27 Jun

「日本再興戦略」って何ですか?

引き続き「戦略」についての話です。


今回は、落合陽一著の「日本再生戦略」を取り上げます。

落合さんは、デジタルネイチャーと知られ、研究者、教育者、経営者、アーティストなど、複数の肩書をもち、百の生業をもつ「百姓的」な働き方をされている方です。

「ぼくも百姓の一人です。大学で教えつつ、メディアアートをしつつ、会社を経営していますから。毎日ちがうことをしています。これからの時代は、百姓の中から、イケている人が、クリエイティブクラスになっていくのです。」

本書、「日本再興戦略」は、2018年に出版された、今後、世界の中で日本が再興するにはどんな戦略が必要かがテーマの本です。

「改革や革命ではなく、アップデートです。
必要なことは、「過去において日本は何が機能したのか、何が時代と合わなくなったのか」を検証すること。
本書がポジションを取って未来を作る皆さんの一助となることを祈っています。」(著者より)

落合さんの主張を、戦略に必要な5つの条件に当てはめて、整理してみました。

1.目的(戦略目標)
日本の人口減少と少子高齢化をチャンスに変えること
シリコンバレーの搾取から脱却すること

2.期間
数年後から2060年位まで

3.資源(武器)
AI、ロボット、自動運転、AR・VR、5G、自動翻訳、ブロックチェーン、トークンエコノミーなどの新しいテクノロジー

4.思考法
これからの日本では機械化が社会正義になる
仕事を機械化してもネガティブな圧力がかかりにくい
産業革命のときに労働者が機械を破壊したようなラッダイト運動が起こりにくい
高齢化社会に向ける社会実験がやりやすい状況にある
日本は機械親和性が高い
5Gが急速に普及していく2025年までに日本はインターネットのインフラ先進国になるはず

輸出戦略 世界に先駆けて高齢化が進む日本は、ソリューションを輸出できる
自動翻訳が発達すると、日本のサービスを世界に出していきやすくなる
2060年頃、少子高齢化がはじまる中国に対しロボットを含めたサービスを売り放題になるはず
「逆タイムマシンビジネス」を行う

教育投資
人材に教育コストを多くかけることができる国になる

サポートテクノロジー、プリンティングテクノロジーで人びとの体が多様化 価値観も多様化する

地方自治体による、仮想通貨 ICOイニシアル・コイン・オファリングによる信用創造

ソフトウェアのプラットフォームを取られたため、シリコンバレー(アメリカ)に、アプリ課金として抜かれている3割を、日本の懐に取り戻す

5.代替案
移民の推奨(本書では、移民を増やすことには懐疑的)

「日本再興戦略」の先行する著作、2011年に出版された、エリク ブリニョルフソン他著「機械との競争」 (Race Against The Machine)では、コンピュータとの競争に人間が負け始めていることこそ、不景気の真の原因であるとし、機械と競争に勝つための策を提案


・教育に投資し、先生の報酬を増額すべき
・大学教授の終身在職権を剥奪せよ
・義務教育の授業時間数を増やせ
・起業に関する規制を緩和せよ
・通信・輸送インフラの強化
・基礎研究への予算を増額せよ
・労働市場の高い流動性を維持せよ
・新ネットワークビジネスへの規制を控えよ
・著作権の保護期間を短縮せよ
・スキルを持つ労働者の移民を増やせ

これらは、「日本再興戦略」の提案とほぼ共通。

唯一、「スキルを持つ労働者の移民を増やせ」については、
 「移民を推奨する人もいますが、やはり政治的・警備的コストが大きすぎます。」
 として、否定的。
 
移民については、アメリカと日本の社会の成り立ちの違いが大きいので、代替案として整理する。

感想

「日本再興戦略」については、

・裏付けになるデータがない
・哲学がない。
・大衆迎合
・ポジショントーク

などといった批判が多く見られます。

「戦略」として打ち出すには、さらに内容を煮詰めていく必要があると思います。

同時に、批判する人たちに、落合さんのようなデジタルネイチャーに対する生理的な嫌悪感といったものを感じます。

 

個人的には、

「リスクを取るほどモチベーションが上がるというのは、機械にはない人間の良さ」

「わらしべ長者に見習うべき。逐次的にやってゆくことが重要であり、機会を伺って動き出さないことには、ただの機会損失になってしまう」

といった落合さんに主張には、賛同します。

意識の高い「評論家」タイプよりは、逐次的に物事を進めてゆく「わらしべ長者」タイプの方が、世の中を変えてゆく力になると思うからです。

 

今日はここまで
(キンコンカン)