栗田 亮

2018 16 Jun

人生に「戦略」は必要ですか?

今回は人生と戦略について考えてみましょう。
 
次の文章は、IT企業「SHOWROOM」社長の前田裕二さんの自叙伝『人生の勝算』 (NewsPicks Book)という本の宣伝文です。
 
「石原さとみを落とした人物の人生戦略『人生の勝算』」という題ですが、文中に「戦略」という言葉が5回出てきます。
 
この本を読む前に想像して欲しいことがある。あなたは子供で自力で金を稼がないといけない状況にある。大好きな音楽でお金を稼ぐ決意をした時に貴方はどんな戦略をとるか。
 
私なら誰とも話さず死ぬ気で練習をし、お金を稼ぐという戦略を取るだろう。
それは技術が正義で技術が感動を与え対価をいただけるという思考が根底にあるからではないだろうか。
 
だが、著者はそれとは全く違った戦略で試行錯誤し、信頼を得て、金銭を稼ぐ、本書はそんはお話である。
 
本書で書かれている著者の戦略としては、まず相手との信頼関係を築き、相手の懐に入ることで特別な関係性となる。そしてその後に相手に自分の音楽を伝えるという戦略だ。音楽を極めるのではなく、相手に対して特別な存在になることに時間をかける。多くの人は練習をする以外の方法で音楽を伝える手段は思いつかないだろう。(中略)
 
最後にもう一度想像して欲しい。
もし石原さとみを落としたいのならどう努力すればいいのか。
それを探す為にこの本を読む価値はあるだろう。

 
この本は、キンドルアンリミテッドで無料で読むことができます。


 
試みに読んでみると、前田社長は成功の秘訣を「見極めて、やり切る」ことだとし、鉱山を掘って宝石を掘り当てるレースに例えて説明してました。
 
(レースが始まると)ほとんどの人が「俺の筋力をみよ」と言わんばかりに山のすそ野からスコップでこつこつと掘り進める。掘り始めると、仕事をしている感じがすごくあるし、思考停止してそのまま掘り続けます
 
しかしこういう人は、掘っている途中で疲労がたまったり、間違っている場所を掘っているのではないかという不安が頭にちらついたりするので結局挫折する、といいます。
 
僕だったら、まずは宝石がこの大きな鉱山のどこに埋まっているのか、どのようにしたら効率的に掘ることができるのかを全力で考えて、仮説を立てることにエネルギーを注ぎます。
 
すでに掘り始めているライバルたちをよそに、自分はあらゆる手段を使って効率的な採掘手段についての仮設を立てるのに注力する。宝石が埋まっている可能性が高いポイントを見極め、可能性の低い場所を捨てるという判断を下す。ほとんどの人は、この過程を飛ばして作業に没入してしまうからうまくいかないのだ、というのです。
 
見極めたら、後は血みどろになっても掘る。絶対に、見つけるまで掘る。
原石がそこにあると見極めた以上、迷わないで、エネルギーを出し尽くします。最短距離で、宝を掘り当てる。

 
自分の進む道はこれで間違いないと信じきれる、という所まで見極め作業を徹底することが、成功への道だと前田社長は説きます。
 
努力の方向を間違わないでおこうという考え方であり、戦略の説明として分かりやすい例え話だと思います。
 
まさに戦略家の思考法だと言えそうです。
(ただし、石原さとみさんに対する戦略については、本書には書かれていません。)
 
同じような人生「戦略」の主張は、島田紳助さんの「伝説の講義」にも見ることができます。

これは、漫才師を志す吉本芸能学院(NSC)の47人に対して、紳助さんの体験談、漫才をはじめようと決めてからコンビを組む前にやったことについて語ったものです。
 
自分がおもろいと思う漫才師いるやんか。ほんで、それをテープで撮る、な。テレビでも撮れるやん、今録画でもできるやん。
それをな、あの、何べん見ても一緒やねん。
紙に書くの。すっごい邪魔やけど、邪魔くさいけど。
それをずっと見ていっつも寝る前考えるねん。どう違うねんって。

 
自分が面白いと思う漫才を文字に起こして分析することで、例えば、オチに入った時の文字数が急に少なくなるとか、名人と言われる人は1分間の中の「間」の数が違うとか、当時のスター海原千里・万里さんのオチのパターンは8割同じだとかがわかってくる。
 
真っ直ぐでストライクとろうと思ってないね。もう、後の8割7割のフォークボールをきれ良く見せるための真っ直ぐ。お客さんの目をくらますための真っ直ぐやと。
で、そういうことをね、初めコンビ組む前に1人でずっと勉強してたんですよ。

 
こうして、紳助さんは漫才の「時代の流れ」を分析したといいます。

次に、その中で「自分にできること」、自分の能力を分析するのですが、ここでの自己分析は極めて控えめです。
自分は、明石家さんまのような華がある芸人にはなれないし、オール巨人のような本格派漫才師にもなれない。その判断に基づいて相方を決め、ツッパリ漫才という自分なりのスタイルを考え出します。(島田洋七さんによれば、ネタはB&Bからのパクりだそうです。)
  
Xは「自分ができること、人に勝てること」で、Yは「時代の流れ」。XとYがクロスした時に、初めて「売れる」という成果につながるという公式に基づいているのだ、としています。
 
このXも分からんと、Yも分からんと、悩んでる人ばっかりやわ。ほんまに、先輩も後輩も。バカか思うのよね。だからこの公式をね、自分たちで作らなアカンねんって。
たぶん自分らこうやってM-1二回戦で落ちたりしてるやんか。これ何にも分からんと漫才してると思うのよね。
ただ単に「おもろいこと考えよ」「ネタ合わせしよ」「なんか新しいことしようぜ」「よそがやってへんことしようぜ」ってな。で、そういうのは絶対無理。

 
紳助さんの思考法もまた、戦略家の思考法であると言えます。
 
これらの例から、
「戦略」とは達成すべき目標を決め、優先順位をつけ、障害の克服法を事前に考えておく思考法

なのだということが分かります。(「戦略」に必要な5つの条件ってなんですか?) 
 
たとえ困難に出会っても、

それが「想定の範囲内」である限り、状況はコントロールできていると感じられる。

この「自信」こそが、物事を成し遂げるための秘訣なのかもしれません。

しかし、人生にこの思考法を当てはめることは、同時に、危うさもはらんでいると思います。

次回は、この事についてお話します。


 
今日はここまで
(キンコンカン)