久保 雅裕

2019 08 Sep

リアリティーとアンリアリティーの錯綜

左上から本妻・津島美知子(宮沢りえ)、太田静子(沢尻エリカ)、山崎富栄(二階堂ふみ)、右が太宰治(小栗旬) ©2019「人間失格」製作委員会     

2人の著名な小説家の映画がこの秋公開される。『人間失格 太宰治と三人の女たち』は9月13日から全国ロードショー。一方『ドリーミング村上春樹』は10月19日から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー予定だ。

翻訳家のメッテ・ホルム​ ©サニーフィルム

この二つの映画、対照的な作り込み方が印象的だった。

太宰と逝った美容師の山崎富栄

まずは太宰治だが、何と言っても蜷川実花による監督作品という事で、「花」がフレームの随所にはめ込まれてくる。そして更に極彩色のセットにも、その影響は及んでいた。バキッとしたコントラストの効き様は、写真を見ただけで村上春樹映画の淡い色彩表現とは真逆だとはっきりと分かる。

本作は、実話に基づいたフィクションという事で、太宰や三人の女たち、さらに出会いのシチュエーションなど事実とはやや違う形で描かれていて、それはそれで芝居としての面白さはあるのだが、やはりエンターテインメント性ゆえのリアリティー(現実性)からの乖離が目立つのは致し方ない。雪の中を舞う花々に囲まれて血反吐にまみれる太宰の姿や『人間失格』執筆中の部屋が宙を舞うような演出も観ていてワクワクさせるものだった。

『斜陽』のモデルとされる太田静子(左)

東京の夜景を眺めるかえるくん

一方の村上春樹には、短編小説『かえるくん、東京を救う』の「かえるくん」が随所に登場する。こちらは村上春樹の翻訳家として世界的に著名なメッテ・ホルム(デンマーク人・現在桐生市在住)を追ったドキュメンタリー映像が基調なのだが、そのリアルな映像の中に擬人化されたカエルがしばしば登場して、デンマーク映画にもかかわらず日本語のセリフを話すという、リアリティーの中にアンリアリティー(非現実性)が持ち込まれる。また村上春樹自身は、いささかも登場しない。あくまでもホルムを通して村上作品を掘り下げていくという趣向なので、ある側面から見た村上像と作品解釈の追求が垣間見られるという感じだ。それもリアルではあるのだが、かえるくんの登場で、現実から引き剥がされる感覚に陥る。ドキュメンタリーでありながら、ファンタジー映画を観ているような不思議なエアポケットに落ちる。

こうしてみると脚色されたアンリアルなアプローチの中にも、部分的には歴史認識と合致するリアルが存在し、リアルに追ったドキュメンタリーの中にも、解釈という名のアンリアルが差し込まれることによって、リアリティーからの離脱が起こる。

作品世界の奥深さを改めて知ることとなった二つの映画。この秋、おススメの作品だ。

日本の居酒屋で村上ファンと語らうホルム