久保 雅裕
組織の作り方を学べる映画『栄光のマイヨジョーヌ』
© 2017 Madman Production Company Pty Ltd
『栄光のマイヨジョーヌ』は、自転車競技のプロチームを追ったドキュメンタリー映画だ。自転車競技と言えば、「ツール・ド・フランス」を思い出す。そしてフランスと言えば、昨年はジレジョーヌ(黄色いベスト)運動によるメトロ駅の封鎖、今年は年金制度改革に反対するメトロのストライキ。それぞれ事情は理解できるが、コレクションや展示会の移動では苦労させられている。そして映画のタイトルはなんとジレジョーヌ、ならぬマイヨジョーヌ(黄色いジャージ)だから回りまわって繋がった(笑)。マイヨジョーヌは、ツール・ド・フランスにおいて個人総合成績1位の選手に与えられる黄色のリーダージャージで、各ステージの所要時間を加算し、合計所要時間が最も少なかった選手がマイヨジョーヌ着用の権利を得るそうだ。
さて、このオーストラリア初のプロ・サイクリング・ロードレースチーム「グリーンエッジ」の発足から5年間を追ったドキュメンタリー映画だが、原題は『ALL FOR ONE』だ。いかにチームプレイが大切で、滅私奉公的要素もあり、「ワンチーム」という流行り言葉にも合致して時宜を得ている。いわゆる「One for all, all for one」は、協同組合の思想「一人は万人のために、万人は一人のために」という意味合いとラグビーの「みんなは一つの目的(トライ)のために」という微妙な解釈の差異もあるのだが、この映画の場合は、後者の方がしっくりくるようだ。
さて、そのマイヨジョーヌを獲得した選手が、アシストした選手にジャージを譲り、次ステージのリーダーを任せるというシーンがある。チームの戦術として委ねたという側面もあったが、一方で栄誉を受けた者が、縁の下の力持ちにスポットを当て、自尊心を育むという効果も大きかったのではなかろうか。
大けがを負い、リハビリに励む若手選手に優勝のチャンスを与え、精神的な恐怖心からの解放を成し遂げたり、もはや力尽きるかと思われるような中年選手が、自身が得意とする過酷なダートレースで、その経験値に信頼を寄せて、リーダー(チーム内からトップでゴールさせる選手)に据えるなど、様々なシーンで展開される戦略と戦術の練り直しに多くの示唆が織り込まれて見えた。「若手をどう育てるか」「ベテランの力を信頼して任せる」「サポートに徹する事でチームを勝利に導く」などなど、組織の作り方やマネジメントが学べる内容だ。
そしてオチは、やはりチームバスによる「ゴールぶっ壊し事件」。これは是非とも映画を観て笑ってほしい。
2020年2⽉28⽇より新宿ピカデリー、なんばパークスほか全国順次ロードショー。