久保 雅裕

2020 30 Jan

潮目の変化を感じた1月のパリ

クラブスタイルのショーに集まるファンの熱狂(キディル20-21年秋冬)

パリメンズコレクション、ウィメンズプレコレを含むトレードショー、オートクチュールコレクション、そしてキッズ展と15泊17日の出張を終えて、帰国の機内でこの原稿を書いている。 今回ほど、トレードビジネスの潮目が完全に変わったと感じたシーズンは無かった。それは、コレクションに足を運ぶ人々の熱狂と、そんな世界とは無縁な圧倒的多くの人々、つまりジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)運動や鉄道を含む公務員労組のストライキ、さらにそれを支持する多数の市民との乖離。

1階の一部のみとなったトラノイ・メンズ・ウィメンズプレビュー

そしてトレードショーの雄だった「トラノイ」の出展者66ブランドという凋落。

さらにキッズファッション分野では隆盛だったプレイタイムの出展者大幅減という現実があった。すでに大人のトレードショーの凋落は、ここ何年も前からのことだが、トレンドが大人の1〜2歩後からやって来る子供分野でも「遂に来たか」といった感があった。

デジタルショールームも用意したプレイタイム・パリ

もちろん「終わり」があれば、「始まり」もある。

それは2つのキーワードで語ることができる。

一つはデジタルシフトだ。プレイタイムでは、フィジカルなトレードショーと同時に年間を通じてB2Bを繋げるデジタルプラットフォーム「マーケットプレイス」を用意して、実際に稼働させている事例をたくさん生んでいた。フィジカルな場所は、フェーストゥフェースでデジタルでは補えない人と人のコミュニケーションから新たな価値を生み出す時間を共有する場へと質的に変化する。

もう一つは、デジタルを通じて、コミュニティーをオフラインで繋げる場がデフィレ(ショー)やイベントだったり、一方でデモやブラックブロック(壊し屋)だったりと、まるで正反対のコミュニティーなのだが、確実にネットワーク化を促進しているのだ。人々はマスに発信される情報を巧みに掴みながら、個々の自己実現の場を、SNSを通じて容易く入手して集まる術を手に入れた。そして、それはいずれ大きな対立軸となって亀裂を生み出していくような気がしてならない。ファッションに熱を上げる人々とそれを冷めた目で観る人々の構図は、早晩、顕在化してくるのではなかろうか。

メトロ6号線は、12、13号線と共にダイヤの回復が遅れた(ラ・モットピケ・グルネル駅にて)

EC(電子商取引)の発達は、B2BからB2Cへの流れを生み出し、さらにD2Cへとシフトが加速された。そして、それ以前のSPAの世界的拡大の影響も含め、トレードビジネスをシュリンクさせてきた。トレードビジネス一辺倒だったニッチなデザイナービジネスは、この難関を避けては通れなくなったと言っても過言ではない。であれば、相手がBであれ、Cであれ、ファンを世界中に作り、繋げ、さらにリアルに盛り上がるコミュニティーを作る事で新たな道の「始まり」があるのではと感じた次第だ。

2月4~6日に開かれるソレイユトーキョー

さて、いよいよ来週火曜日、2月4日から、ゆったりと観られる合同展「SOLEIL TOKYO(ソレイユトーキョー)」が代官山ホワイトルームで始まる。規模の大きな疲れるトレードショー(その役割を否定するつもりは毛頭ないので悪しからず)とは違ったヒューマンスケールの場を提供する事で、新たなコミュニティーの創出に繋げたいと願っている。小さくても素敵なブランドたちを紹介しているので、是非チェックしてほしい。 またこのテーマでいろいろな方々と議論もしていきたい。そんなサロンのような場にもしていきたいと考えている。

プレゼンテーションに多くのファンが詰めかけた(アンドレア・クルーズ20-21年秋冬)