久保 雅裕

2018 14 Jan

不寛容の広がりに警鐘を鳴らす 映画『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』

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トランプ米大統領がエルサレムに大使館を移転すると発表して以降、各地で反発の声が広がっている。折角IS(イスラム国)が衰える最中、またぞろ火種を一つ増やした恰好だ。世界各地で広がる二者択一の論理があらゆる分野で不寛容を生み出している。白人か否か、その民族か否か、その宗教か否かなど枚挙に暇がない。またネット社会がそれを煽る温床にもなっている。もちろん筆者はネットを否定するものではないが、匿名性と真偽の危うさが、どうにもマイナスな気がしてならない。と、こんな事を書いているのもネットなのだから、その利するところ余りあるのも十分承知しているのだが(^-^;。

さてそんな多民族国家、米国では、2043年に白人が人口の過半数を割り込むと言われ、最近、米国勢調査局が発表したデータによれば、「2060年までに総人口に占める非白人の比率が57%に拡大し、ヒスパニック(中南米系)とアジア系が大きく増える」と報告された。

今回紹介する映画は、そんな現代社会における民族問題への温かいメッセージなのかもしれないと試写会を観終えて思った次第である。

パキスタン出身のアメリカ人コメディアン、クメイル・ナンジアニが宗教と異文化を超えた結婚を成し遂げるまでの数々のトラブルと騒動を乗り越えた実話を、自身が脚本、主演を務め、映画『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(原題:THE BIG SICK)にまとめ上げた。

パキスタンで生まれ、シカゴに移住したコメディアンのクメイル(クメイル・ナンジアニ)は、アメリカ人大学院生のエミリー(ゾーイ・カザン)と付き合うことになる。パキスタン出身の花嫁しか認めない厳格な文化を背景に持つ母親は、次々と見合い持ち込む。仕方なく対応するクメイルだったが、そのことがエミリーにばれて、2人は破局に。だが数日後、エミリーは原因不明の病で昏睡状態に陥る。エミリーの両親とのぎくしゃくした関係、家族との葛藤、変化していく周囲の人々の心の機微。そして、エミリーは目覚めるのか?

コメディーの内容に面白味が感じられるかは、文化の違いもあるだろうが、底流にあるテーマを意識下に置きながら観ていくとリアリティーのある社会の縮図に出会えることだろう。

2018年2月23日よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国順次公開予定。