久保 雅裕

2020 17 Aug

音楽とファッションの関係性も垣間見える映画『マイルス・デイヴィス クールの誕生』

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テレビドラマの「俺たちの旅」に憧れて、吉祥寺の高校に通っていた頃、紫煙に包まれた空間のライブハウスでバーボンを片手にモダンジャズを聴くのが「カッコ良い」と思い込んでいた節がある。「今夜、ソメチメ(sometime)行く?それとも赤いカラス?」そんな会話を交わしてはいたが、マイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンくらいしか分からず、父親のLPレコードのグレンミラーの方が聴きやすいと思っていたくらいだから、かなり大したことない「かぶれ者」だった。そう言えば、森田童子の歌でチャーリーパーカーを知ったことも思い出す。

さて、モダンジャズの大御所にして天才的なトランぺッター、マイルス・デイヴィビスのドキュメンタリー映画が公開される。その名も『マイルス・デイヴィス クールの誕生』
本作は2018年公開の長編映画『マイルス・アヘッド』やドキュメンタリー映画『マイルス・デイヴィス・ストーリー』ともまた一味違った切り口を見せる。それはマイルスの負の側面の深部にまで迫ったところなのかもしれない。

裕福な家庭に育ち、ジュリアード音楽院に進学するなど、黒人としては恵まれた環境で才能を開花させていくが、戦後のパリに渡った彼とピカソやサルトルたちとの交流は、恐らく米国のレイシズムからの解放を意味したのだろう。パリという街の不思議な魅力は、そんな哲学的な人間性追求の土壌、テロワールのようなものが根底にあるのが米国と違った奥深さなのかもしれない。
だからこそ、名声を得た後でも彼を襲った白人警官による殴打の悲劇によるトラウマや人間不信は、米国由縁そのものだったと言えよう。そのトラウマは深く彼の心に沈み、のちのちまで尾を引いていくことになる。レコードジャケットの写真を白人女性から変更させたことも、薬物に依存し転げ落ちていく心理も、根っこにはあのトラウマがあったのではと。
薬物中毒で故郷に戻り、再起を期す訳だが、それでも山あり谷ありの薬物人生となっていく。
音楽的に見れば、52ndストリートジャズからの革新、フラメンコやインド音楽とのフュージョン、ウッドストック時代の挑戦などマイルスの変遷と進化が手に取るように分かる秀逸な構成だ。しかも新しいジャンルに挑戦するマイルスのファッションの変化が手に取るように分かるのも可笑しくもあり、興味深い。

カルロス・サンタナ
クインシー・ジョーンズ、ハービー・ハンコック、カルロス・サンタナ、ジュリエット・グレコらマイルスと関わった友人たちのミュージシャンやライター達、マイルスと人生を共にし、愛された女性たちの証言を通して、そしてマイルスに代わって「マイルス」の言葉を披歴したカール・ランブリーのナレーションも彼の人となりを伝える大きな役割を果たしていた。


クインシー・ジョーンズ
ジャズの帝王の歴史を知ることで、ジャズだけでなく、ロックやヒップホップまで大きく影響を与えた現代ジャズシーンを振り返る2時間は、大きな学びの時となるだろう。9月4日より全国ロードショー予定。

ハービー・ハンコック