久保 雅裕

2024 07 Nov

日本映画が19年ぶりの東京グランプリ受賞~第37回東京国際映画祭


©2024 TIFF
第37回東京国際映画祭が2024年10月28日~11月6日、東京の日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開かれ、6日にクロージングセレモニーと受賞記者会見を開いた。
東京グランプリには、吉田大八監督『敵』が受賞。日本映画の受賞は19年ぶりのこととなった。さらに最優秀監督賞、主演男優賞(長塚京三)と合わせ3冠を達成した。
両氏は、審査委員長のトニー・レオンからトロフィーを授与された。
日本映画がグランプリに輝くのは第18回の根岸吉太郎監督作『雪に願うこと』以来 19 年ぶりの快挙で、喜ばしいことだが、この20年余りの日本映画の不作を如実に表す結果かもしれない。「失われた30年」の中で、経済的な低迷が映画制作の現場に影響を与えてきたのではないか。厳しくなる経営環境の下では、興行収入に重きを置いたマーケティング型の作品が増える事は否めない。さらに制作費のコストカットや合理化、制作期間の短縮化などしわ寄せは無かったのか。この辺りの検証や分析が求められる。
一方で、アジア、中東、ラテンアメリカなどの新興国の映画のレベルが上がってきたことで、相対的に地位が下がった部分も考えられる。
2017年から取材を始めたのだが、私が注目した海外の映画を見ると、なんとなく彼らの力強さというか泥臭さが伝わってくる。作品は後述しておく。

さて、コンペティション部門東京グランプリと東京都知事賞に選ばれた『敵』に出演し、最優秀男優賞に選出された長塚京三は、同賞受賞者としては最高齢の79歳。
長塚は、「ちょっとビックリして、まごまごしています。『敵』という映画は、年を取って一人ぼっちで助けもない。そして敵に閉じ込められるという内容で。でもこういう場に立たせてもらい、結構味方もいるんじゃないかと気を強く持ちました。ボチボチ、引退かなと思っていたので、奥さんはガッカリするでしょうけど、もう少し、この世界でやってみようかな。東京国際映画祭、ありがとう。味方でいてくれた皆さん、ありがとう。」と受賞時に語った。
また最優秀監督賞を受賞した吉田大八監督は、「この小さな映画を誕生から旅立ちまで見届けてくれてスタッフや俳優の皆さんに感謝しています。私自身がいい監督であるかはわかりませんが、この映画がいい映画になったことは確かです。ありがとうございました。」と述べ、東京グランプリ/東京都知事賞の受賞の際には「審査員の皆さま、ありがとうございます。10日間映画祭を支えたスタッフの皆さまもありがとうございます。私自身もこの映画祭で多くの映画を観ることができました。味方は意外と多いことに気づけて良かったです。僕も長塚さんも皆さんの敵であり、味方でいたいと思います。これからも映画をよろしくお願いします。」とコメントした。

ほかの各賞は、以下の通りだ。

審査員特別賞 『アディオス・アミーゴ』(コロンビア)
最優秀女優賞 アナマリア・ヴァルトロメイ(『トラフィック』、ルーマニア/ベルギー/オランダ)
最優秀芸術貢献賞 『わが友アンドレ』(中国)
観客賞 『小さな私』(中国)
アジアの未来 作品賞 『昼のアポロン 夜のアテネ』(トルコ)
東京国際映画祭 エシカル・フィルム賞 『ダホメ』(ベナン/セネガル/フランス)
黒澤明賞 三宅唱、フー・ティエンユー
特別功労賞 タル・ベーラ

そんなこんなで、今年の東京国際映画祭は幕を閉じたが、以下は2017年以降、私のピックアップした力強い海外映画のラインナップだ。参考までに。
中国『老いた野獣(原題:Old Beast)』、イスラエル映画の『靴ひも』、ルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー合作エルサレム舞台の『テルアビブ・オン・ファイア』、ドイツ・アゼルバイジャン制作『ブラ物語』、スペイン・アルゼンチン合作『戦争のさなかで』、フランス・コロンビア合作『戦場を探す旅』、中国『チャクトゥとサルラ』、タイ『私たちの居場所』、スウェーデン『約束の地のかなた』、トルコ『湖上のリンゴ』、イギリス『バクノルド家の夏休み』、ポルトガル『最後の入浴』、チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン合作『老人スパイ』、ブルガリア『二月』、韓国『チャンケ:よそ者』、イラン『ノーチョイス』、ポーランド・アイルランド合作『私は決して泣かない』、フランス『デリートヒストリー』、ロシア『親愛なる同志たちへ』、イギリス・ベルギー合作『アーニャは、きっと来る』、スペイン『ザ・ドーター』、台湾『アメリカン・ガール』、フィリピン『ブローカーたち』、スペイン『ザ・ウォーター(原題エル・アグア)』、イスラエル『アルトマンメソッド』、ウクライナ・トルコ合作『クロンダイク』、チリ・アルゼンチン・オランダ合作『開拓者たち』、米国『ペルシアンバージョン』などだ。

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