久保 雅裕

2021 23 Nov

東京国際映画祭で知る世界

第34回東京国際映画祭が2021年10月30日~11月8日、日比谷・有楽町・銀座地区で開かれた。昨年の六本木地区から開催地が変わり、少々勝手が分からないでもなかったが、まずはプレスバッジとカタログをゲットしてスタート。メディア向けのP&I上映スケジュールをチェックしたが、今年もやはり1作品につき1回のみで増えていない。いつも思うのだが、一般上映に混ぜて、P&Iの視聴機会を増やしてもらえたら、どんなに助かるか。映画専門のジャーナリストであれば、こなせるかもしれないが、様々なジャンルをカバーしている筆者としては、もう少し機会を拡大してほしいと思う次第で、毎回アンケートには書いているのだが…。
さて、そんな訳で今回は3作品を紹介する。

© 2021 Mod Producciones, S.L. / La Loma Blanca Producciones Cinematográficas, S.L. / La Hija Producciones la Película, A.I.E.

スペインの山奥で繰り広げられるサスペンス『ザ・ドーター』。
少年犯罪者の更生施設に入れられている妊娠中の少女イレーネは、指導員のハビエルに連れられて山岳地帯のハビエルの住む一軒家に匿われる。ハビエル夫妻は生まれてきた子を養子にするという条件で、イレーネを失踪したことにし、イレーネの出産を手伝う。イレーネはお腹の子供の父親である恋人に会いたいと、こっそり街に出ていくなど、ハビエル夫妻を苛つかせる。単純に子供を養子縁組すれば済むだろうことに、ここまでややこしい企てが必要なのかは置いといて、ハビエル夫妻の願望が、やがて人の道を外れるほどに正常ではなくなる心理の変化の恐ろしさを目の当たりにする。ハビエル夫妻の飼っている獰猛な犬2匹にも、その恐ろしさが乗り移って伏線を敷いているようにも見えた。


続いて台湾映画の『アメリカン・ガール』。
SARS(重症急性呼吸器症候群)が猛威を奮っていた2003年。13歳の少女ファンイーは、母、妹と暮らしていたロサンゼルスを後にし、父の待つ台湾に戻ってきた。肺癌と診断された母の本格的な治療を開始するためだった。父は久しぶりに同居する妻や娘たちを気遣いながらも仕事に追われ、母は体調も精神状態も不安定に。そんな中、編入したカトリック系の学校で「アメリカン・ガール」とあだ名を付けられたファンイーは、孤独といらいらを募らせ、「ロスに帰りたい」と思い詰めていく。母親の具合が芳しくない中、さらに妹がSARS疑いの病気になり、家族がバラバラになりそうな状況に。果たして家族の絆を取り戻せるのか。淡々と日常を描くリアリティーのあるドラマで、今回一番の収穫だった。

 

最後はフィリピン映画の『ブローカーたち』。
不動産会社の新人マイクは、契約が取れずに悪戦苦闘する日々。ある日、「高速道路出口から近くて、マンションを建てるための広くて静かな土地を探している」との依頼が舞い込む。地方議会の議員をしている父に相談すると、マイクの幼なじみのジェスに相談してみたらとアドバイスされる。ジェスに会い、頼んでみると地主のテシー夫人を紹介されるが、その一部がスラム街になっていて、多くの住民が暮らしていた。周囲の広々とした土地は依頼主の意に適うと、マイク、ジェス、そしてマイクの父も加わり、市長も取り込みながら土地取得合戦が始まった。しかし、この土地を離れたくない人々、立退料に群がる人々、この機をチャンスと暗躍する人々など、大きな欲望と小さな欲望が絡み合って、事態は混とんとしていく。


マニラの貧富の差を、まざまざと見せつける社会派ドラマの態を成しながら、サスペンスの要素も盛り込んだエンターテインメントに仕上がっているが、むしろ、これが「真の姿なのでは」と思わせる厄介さを抱えた社会が垣間見えた作品だった。
世界を知る手段の大切な1週間が終わった。
来年には、P&Iスケジュールが拡大されることを願う。