久保 雅裕
無限に広がるマリアージュ、ワインに近づく日本酒の開発
シラスとキャビア
筆者はここ数年、ライフスタイル系の取材も積極的に取り組んできたが、繊研新聞パリ支局長時代の駐在経験の影響も大きく、「マリアージュ」をテーマとして取り上げることもしばしばある。「ワイン」と「料理」の組み合わせ、相性の良さを「結婚(マリアージュ)」になぞらえて表現する独特の言い回しだが、この組み合わせを突き詰める作業には、新しい発見や既成概念を打ち砕いた先にある至福の時を感じる醍醐味があるものだ。
さて、そんなマリアージュを体験できる機会に遭遇した。
それは、あたかも白ワインを思わせるような味わいを作り出した日本酒とフレンチのマリアージュを体験する会だ。
日本酒の名は「吟天(GINTEN)」。 日本IBMのエンジニアから転じて日本酒作りを始めた酔狂な人、小田切崇さんが蔵元と作り込んで完成させた別次元の日本酒で、白麹を使うことで酸味が強くなり、白ワインに近い味わいになる。
ロケーションは、フランス、スイスの星付きレストランで修業し、「銀座レカン」でスーシェフを務めた相原薫シェフが、今年オープンしたフレンチレストラン「Simplicite(サンプリシテ)」。
まずは、「吟天白龍2016」(16500円・税込)と併せて、前菜をいただく。白龍はシャンパンと同じく瓶内二次発酵でスパークリングワインのような日本酒だ。発泡度合いは、シャンパンよりやや弱く、微発泡といったところだが、かなりスパークリングワインに近い。来年発売されるビンテージは、より発泡性が強くなるとのことなので、期待大だ。
紅ずわい蟹とイクラ
黒いパン粉と食すカカオとオリーブのマドレーヌ
鰯の燻製
鰆と菊芋
魚料理と併せるのは、「GINTEN blanc 2021」(11000円)。これはもう、ほぼ白ワイン、白麹の力凄し!!。クエン酸の利いたドライな純米吟醸なのだが、まるでボルドーや南仏のソービニヨンブランを飲んでいるかのようだ。
太刀魚とムール貝
肉料理には「吟天水龍2018」(5060円)。こちらは3年熟成で、今回試飲した3本の中では、一番日本酒に近いものだったが、(本当は日本酒なので、この表現は変なのだが~)アルコール度数は11%と控えめながら、コクのあるまろやかな味わいは、肉料理にマッチするとも言える。
ホロホロ鳥とマッシュルーム
デザートには洋梨とトンガ豆のアイスクリーム
締めはシュークリームとコーヒー
驚くほど酸味のある白ワインに近い吟天水龍。近づけば近づくほど「ワインで良いんじゃない」となってしまう。日本酒なのにワインのよう。その付加価値を、どう喜んで、ビックリしてもらえるか。価格を考えると記念の一杯、記念の一本になるものをどう作るのか。その希少性、話題性を軸にしたブランドイメージの確立が求められる。