久保 雅裕

2019 27 Jul

大手セレクトバイヤーのヒアリングを終えて

モードインフランスにて(※本文と写真は関係ありません)

最近、いくつかの海外ブランドについて大手セレクトショップのバイヤーや経営幹部からヒアリングし、アドバイスする機会を得た。各社ともターゲットの年齢層や収入、立地や規模感も違うので、自店を想定した答えにはバラツキがあるものの、ジェネラルな視点や日本のマーケットから見た場合の意見には多くの共通項が見られた。

MD面では日本の季節感や暑さ対策などの視点から、スプリングコートやジャケットの裏地を半裏や背抜にすべき点や、ワークジャケットのやや重ための綿素材をもっと軽い素材やシャツ地に変更した方が良いなどの意見が聞かれた。特に重たい生地感は、ヒストリーやその重厚感を愛するマニアックなファンが居ることも確かなのだが、やはり世の趨勢は軽くて着易い、着心地重視へと移っている点も考慮しなくてはならない。

また「強いアイテム」「スタンダードアイテム」「シグネチャー」が何なのかをはっきりと打ち出すべきとの声も多かった。アーティストコラボTシャツ、職人によるクラフト感ある靴のベジタブルタンによる色バリエーションなどコアな特徴を持ちながら、それが前面に見えてこないプレゼンテーションでは、ブースに立ち止まってもらえないという運命が待ち受けているという事だ。アーティストの作品と一緒に見せるとか、色バリエーション全てを一つの棚にずらりと並べるといった工夫が必要だと指摘する。ブランドロゴやアイコンが色々あるのも分かりやすさに欠ける。1~2種類に絞って見せるべきという事だ。またモード、ワーク、ストリートなど幅が広すぎて総じて分かりづらくなってしまっているというブランドもあり、ブランド認知が広がるまでは、もう少し絞った方が伝わりやすいと指摘されていた。

さらにより突き詰めた物作りを求める意見もあった。ビンテージの匂いのするブランドで洗い加工を施されたアイテムであれば、真っ新なボタンでなく、ビンテージ加工したボタンを付けるとか、高級素材を使ったエレガントなブランドにも関わらず、カジュアル工場で縫製されたらしく、ペタッとした立体感の無い仕上がりになったブルゾン、襟元や裏地の一部にスエードを使ったコートについては、移染(スエードの粉が付く)を気にする白いシャツを着るような客には不適切など最後の詰めの甘さを指摘するバイヤーも居た。ブランド側は「今まで移染したことはない」と反論するが、「その不安をいちいち払拭しなければならないと思うと買う気が削がれてしまう」という心理まで想いを馳せるべきだ。

価格面では、日EU経済連携協定(EPA)発効により、関税が無くなって、内外価格差が減ることにより、売りやすくなると思っているブランドもあったが、価格差の多くを占める物流コストについて、あまり意識していない様子が窺え、「少し能天気だな」と思ったのは筆者だけではなかったようだ。だが欧州からの輸入に長けているバイヤー達にとっては、生産地の違いによる価格差も含めて理解があるため、さほど問題にはならなかったように見受けられる。これが逆に日本のブランドが欧州に進出した場合を考えると、欧州バイヤーの中には、そこまでの価格に対するリテラシーが高くない人も多く、FOBだけ見て、「これなら買える」と喜んだのも束の間、届いてみたら、運賃と自国の消費税に目を丸くして、「なんでこんなに高いんだ」などと驚いてしまうレベルの低いバイヤーをたくさん見聞きしてきたものだ。

話が逸れたが続いては、「聞く耳を持てるか」という姿勢の問題。先のスエードの移染の指摘でもそうなのだが、「自分が説明できれば不安は払拭できる」と考えるのは大きな間違いだ。販売スタッフの手間まで考えると躊躇せざるを得ない。さらに今回の様々なアドバイスコメントを、どういう姿勢で受け止めるかによって、そのブランドの日本での未来が分かれていくことだろう。指摘された点を改善したり、採り入れ実践してみたりという姿勢があれば、マーケットに適応していくことができるだろうし、「自分は自分」と変化を拒めば、マーケットに受け入れられるかは、無いとは言い切れないが定かではないだろう。

翻って、日本ブランドが海外進出する場合と重ね合わせてみると、日本市場をグローバルマーケットに置き換えた時のブランド側の対応力や姿勢については全くと言って良いほど共通項があることが分かった。変化する対応力が無く、「自分は自分、作りたいものだけ作って、分ってくれる人だけが買ってくれれば良い」というスタンスでは、前述と同じことである。海外に出れば、サイズ感や文化も違う。サンプルサイズだって違うのだ。日頃、欧米ブランドを中心に買っているバイヤーにとって、いつもと変わらないようにバイイングしたいのは、当たり前のこと。先まで見越して、相手の為を思ってできる日本人のDNAがあれば、彼らの痒いところに手が届くような製品とサービスが提供できる筈だ。

今回の取り組みを通じて、「我が振り直せ」的な教訓が見えてきたのも面白い結果だった。

モードインフランスにて(※本文と写真は関係ありません)