久保 雅裕

2020 17 Jun

モン・ベローが象徴するのは機能的利用価値と悦楽的所有価値

日曜日、がら空きのオペラ通り。マイ・カーならぬ、モン・ベローでサイクリングを楽しむグループ。©cafe de seine

以前、アパログでも紹介したフランスのベテランジャーナリスト、小川征二郎さんが、フランスの日常やイベントなどをレポートしてくれる歳時記的な月刊誌『Cafe de Seine(カフェ・ド・セーヌ)』53号が先日届いた。

毎月届くのが楽しみな『カフェ・ド・セーヌ』©cafe de seine

その中で、目に留まったのが「モン・ベロー時代の新たな始まり」の中見出しだ。ベローは自転車なので「マイ自転車」という事になる。
冒頭「コロナ問題の最中、注目される職業が今、急浮上しています。その職業とは自転車のメカニシャン(技術、整備士)です。」(以下一部中略あり、原文ママ)とある。
確かに日本でもコロナ以前から、エコやウェルネス志向から自転車通勤が増えており、サイクルバッグなどアクセサリー関連の売れ行きも好調と聞く。
ただパリの場合は、燃料税に端を発したジレジョーヌ(黄色いベスト)運動、昨年の年金改革反対のメトロのストと、この3年間、庶民の足である公共交通機関の麻痺が大きな影響を与えているのは、すぐに察しの付くところだ。
筆者もパリ駐在時代には、日本から持ち込んだ折り畳み自転車で、パリの街を疾走したものだが、あの頃はむしろレジャーの一つくらいにしか思わなかった自転車が必要に駆られて浮上したという訳だ。
小川さんはお住まいのパリ郊外、モントローからの電車で「乗客はまばらですが、自転車持参の人が多い事に驚きました。今迄見なかった光景です。到着したパリ・リオン駅の各ホームには自転車を転がしながら歩く人が大勢います。」さらに「ピラミッド駅で下車。階段を上がってオペラ通りに出ます。日曜日のオペラ通りは閑散としています。バス停のベンチに掛けて暫く通りの様子を眺めてみます。人の姿も少なく、普段行き交うバスも忘れたような時間に到着します。目につくのは通りを颯爽と走る自転車利用の市民です。今パリの一番便利な交通手段は自転車でした。乗用車、バス、トラックなどが減少した大通りをスイスイと走る自転車族は如何にも楽しそうに見えます。」と綴っていた。
この動きを後押ししているのが、実は行政なのだ。「パリ市は350億円を投じて、首都圏に総延長680kmの自転車専用レーンを作る計画を発表しています。これが完成するとパリの交通手段の主役は自転車になるとも言われています。勿論、既存のメトロ、バスなどの交通機関は現状通りの運行になりますが、一般乗用車用の通路幅はますます狭くなると言われています。6月25日、パリ市長選の第2回投票があります。現職のイダルゴ市長が再選されるとパリの交通整備が車中心の現状から人中心へと更に進行すると言われています。結果自転車を利用する市民が大幅に増える事は間違いないでしょう。」という事で、政策的な追い風の中、自転車の売り上げも急上昇し、前述の自転車整備士が注目されている。果て??、自転車販売店ではなく、自転車整備士?。そこがフランスらしい。「国は古い自転車を修復するために6000万ユーロの予算を組みました。手持ちの古い自転車修復に50ユーロ、新規購入する電動自転車に付いては20%で上限200ユーロを国が負担してくれます。」という事で、修理して使うというフランス人お得意のテーマでもある。

次々と訪れる自転車愛好家に忙しく対応する自転車店のオーナー兼整備士。朝から働き詰めと言う。©cafe de seine 

小川さんは「この様な自転車ブームに合わせる様に、今人気の職業に自転車整備士が急増しています。今後も更に希望者が増え続けると言われています。パリの自転車店と言えば、ヴェリブ(※シェアサイクル)に押されてつい先日まで斜陽業種の代表と言われたものです。新型ウイルス発生を機に、世界のあらゆる価値、仕組みが変わろうとしています。今は戸惑う事無く変化して行く新しい時代に対応できればと思っています。」と締めくくっていた。
「所有からシェアへ」という時代の変化が当たり前になる世の中で、また新たに所有する喜びや価値、必要性が生まれてきたというのも皮肉なことだが、心ときめく物、例えばアンティークの食器や家具などに想いを馳せるのと同じように、機能的利用価値と悦楽的所有価値の組み合わさった新たなニーズは、こういった形で生まれてくるのかもしれない。
筆者はこの10数年、買い替えはしたものの、必ずオープンカーに乗っている。利用価値だけならカーシェアリングなのだろうが、「FUN TO DRIVE」と、どこかのメーカーも言っている。それこそが人間的豊かさの発露の一つの方法だと家族に言い訳している今日この頃だ。トホホ。形勢不利。