久保 雅裕

2019 19 Aug

「不可分性」という現代社会を紐解くキーワード

先日、日本ホビー協会に呼ばれて「サスティナブルをめぐるファッション産業の今日的課題」というテーマで講演を行った。11月に発行される『ホビー白書』にも特別寄稿としてさらに詳しい内容で掲載される予定だ。

さて、業界内でも頻繁に使われるようになった「サスティナブル」(持続可能性)という言葉だが、企業やブランドの価値を高めもするし、毀損もする、避けては通れない課題となってしまった。それだけに、あらゆる業界においても、その言葉の重要性を意識した取り組みが強化されているのが現実だ。とはいえ、欧米諸国に比べる周回遅れの感が否めなかった我が国。早々に失地を回復していかねばなるまい。

今回の講演では、クラフトホビーの業界が取り組むべき課題やそこに携わる人へのメッセージも込めて話をさせてもらったが、本編はやはり、ファッション業界の課題だ。それらの課題を「環境」「倫理」「経済」「技術」の4つの視点から掘り起こし、それぞれの領域ごとに図「課題のポジショニングマップ」にまとめて、関連性と特に重要視される課題を提示した。

これ以上は白書の本稿に譲るとして、やはり前提となった2001~05年の国連「ミレニアム開発目標(MDGs)」と2016~30年の15年間に達成すべき課題として提示された「SDGs(Sustainable Development Goals)/世界を変えるための17の目標」の事は触れざるを得なかった。前者が後進国を中心とした課題解決を中心に据えたものだったのに対して、後者は先進国も含めたすべての人々を巻き込んだ課題として受け継がれ、発展させられたものだった。特にこのSDGsでは「不可分性」が重要な特徴となっており、それぞれが単独の課題ではなく、複雑に混じり合っている点を踏まえる必要があると言われている。さらに筆者が作った前述のポジショニングマップを見てみると、面白いことに「技術」単体で語れるものは一つもないことが分かった。「技術」はすべてにおいて、何らかの要請から開発、革新がもたらされていることに気付かされた次第だ。

つまり「不可分性」とは、社会の在り方そのものであり、「政治」「経済」「民族」「宗教」「文化」「国」「性別」「階級」「年齢」といったあらゆるファクターの衝突と和解、接触と融合の繰り返しとその現象化なのだと思わせられる。その絡み合いを理解しながら、紐解いていく地道な作業が、今求められているのだと思う。