武田 尚子
私たちは何から解放されたいのか
「INNER通信」という名前で長年ご愛顧いただいた私のブログも、サイトリニューアルで再スタートを切ることになった。
その第一回はちょっと気張って、インナーウエアの基幹アイテムであるブラジャーをテーマにしてみたい。
今のブラの動向を一言であらわすと、ソフト化がとまらないとでもいったらいいか。
「ソフト化」という言い方に語弊あるとしたら、「快適志向」「ラク志向」という方がいいかもしれない。工業的にいうと、複雑なものを単純化した「ミニマル化」だろうか。
これは世界的な現象だ。共に、ワイヤーを使わないノンワイヤータイプが明らかに増えていることがそれを象徴している。
ただ国内外で異なるのは、海外はブラパッドが入らない一枚物が多いのに対し、国内はノンワイヤーであってもワイヤーに代わる造形機能を盛り込み、カップ部も比較的しっかりめ、あるいは接着技術を活用した軽いシームレスブラの隆盛は日本ならではの現象だ。
先日行われたワコールの記者懇談会のなかで、「GOCOCi」や「SUHADA」に代表される“新・解放系”といわれる快適性重視の新しいカテゴリーが、既にブラジャーアイテム全体の三分の一程を占めていることが明らかにされた。
同じ商品でも時代と共にソフトに変化しているというのとは異なり、同社の場合は体型補整機能重視の商品はしっかりそのコンセプトを貫いている。つまりトレンドに全体がぶれることがなく、商品それぞれの目的を明確にしながら、常に時代のニーズに対応した新機能を盛り込んだ新製品が打ち出されているのだ。
考えてみると、体型補整や造形性といった「機能性」と、着け心地のよさを重視した「快適性」の双方を両立させるのは、ワコール伝統のお家芸ともいえる卓越したノウハウであって、考えてみるとあのブラ市場のエポック的な商品となった“寄せてあげる”の「グッドアップブラ」やその後も、「快適性」というキーワードはずっと使われていたように記憶している。
「ソフト化」と一言でいっても、時代によってその意味や内容は違う。
私がこの業界の取材を始めた35年前当時(もちろん「グッドアップブラ」以前)、ファッション化・ソフト化の旗印のもとに、ブラはずいぶんソフトで軽いものになっていたが、それは現在の”新・解放系”とはだいぶ異なる。
素材や商品設計が新しいというのに限らず、もっと大きなエンジニアリングやテクノロジーの改革の上に立ったブラ革命の真っただ中に私たちはいるのだと思う。
私たちはいったい何から「解放」されたいのか。それは「ワイヤー」に限ったことではない。個人的にいっても私は決してワイヤーが嫌いではないし、ワイヤーフォームのブラを選ぶという選択肢を捨てたくない。
つまり「ワイヤー」に象徴されるネガティブなものすべてからの解放なのだろう。
あらゆるモノやコトを体験した今、自分が何を求めているのか。それは実はものすごくシンプルな方向なのではないだろうか。