武田 尚子

2024 30 Jan

パリで2つのモード&スポーツ展

オリンピックを半年後に控えたパリで、モードとスポーツの歴史を検証する2つの展覧会が開かれていた。
一つは、ルーブル宮右翼にある装飾美術館の「MODE ET SPORT(モード&スポーツ)―表彰台から表彰台へ」で、あのディオール展も開催された懐かしい場所だ。


ラコステが主要パートナーであることもあって、種目別ではルネサンス時代から人々が楽しんでいたというテニス(フランス語のtenezが語源)の歴史から始まり、関連する展示物も目についた。
乗馬、自転車、体操、海浜着・水着、ウインタースポーツと続き、オリンピックに関係する資料も。歴史的資料の中では、スポーツ用のコルセットもいくつか見られた。また、ニットやストレッチ素材はもともとスポーツウエアからスタートしていることも再認識することができる。

シャネルの「クチュールスポーツ」(左から3番目)をはじめ、クチュリエのニットが並ぶ。

1937年のエルメス。海岸やテニスで着用するコットンリネンのアンサンブル

 

観戦ファッションの今(左)と昔(右)を並べた展示もおもしろい。

吹き抜け大ホールにあったのは、現代のトップデザイナーたちのコレクション。
モードの革新者たちが、スポーツにどのようにインスピレーションを受けてクリエイションを行っているかを興味深く見ることができた。サッカーボールのような切り替えのある中央の黒いドレスは、川久保玲(コムデギャルソン)。

 

もう一つは、豊富な服飾コレクションを所有するガリエラ宮パリ市立モード美術館(ガリエラ美術館内ガブリエル・シャネルギャラリー)の「LA MODE EN MOUVEMENT」。この「MOUVEMENT (MOVE、MOTION)には「動き、運動、移動」の意味があり、人のからだを基軸にしたそのすべての要素がこの展覧会には含まれている。こちらは装飾美術館のような規模や華やかさとは異なるが、18世紀以降のモードの歴史を中心にした、主に年代別のシックな展示となっていた。1月中旬までは、アライアのコレクション展も隣接する場所で同時開催されていた。

会場の最初に展示されていたのは、ビーチウエア(水着)。右は19世紀初頭の布帛のドレス(実際にこういうものを着用して海に入っていた古い映像が会場で映写されていた)、左は1965年のトリンプ製の水着(ナイロンニット)の二体

1870年のサマードレスはリネン


スポーツといっても専門のアスリートを軸にしたものではなく、ウォーキング(散歩)などのアクティビティも含めて、社会の変化に伴う人々の生活と装いに重点が置かれている。交通の進歩につらなるレジャーの発展は、人々のライフスタイルを変化させ、スポーツの大衆化の役割を果たした。こうしてモードとスポーツとの関係を見て行くと、やはり体意識の変化、そして女性の解放の歴史に思いを馳せることになるのである。

両展に共通し、最後に展示されていたのはスニーカーのコーナー。テクノロジーの進化やスポーツビジネスの競争激化、若者カルチャーとの深い結びつきをあらわすものとなっていた。

 

もちろん、経済的にも歴史的アーカイブという意味でも、ストックあってのことだが、オリンピックを契機にスポーツの「歴史」をきちんと検証して広く伝えようとするこの国の姿勢には、感銘を受けざるをえなかった。
また、アメリカではかつて婦人服も紳士服も既製服のことを「スポーツウエア」と呼んだように、私たちの現代の衣服のベースはスポーツウエアなのだ。あらゆる世代の服装がぐんとスポーティになった昨今において、この意味をもう一度考えてみたいと思う。

 

「「MODE ET SPORT」展 2024年4月7日まで
「LA MODE EN MOUVEMENT」現在のエピソード1の展示は2024年3月15日まで(さらにエピソード2は2025年1月まで、エピソード3は2025年5月まで開催)