武田 尚子
ワコールヨーロッパの今
私の年間一大イベントである恒例の「パリ国際ランジェリー展」のセミナーやレポート執筆も終わり、今年もどうにか責任を果たせたかという妙な安堵感にある。今回の概況は以下をご覧ください。
https://apparel-web.com/pickup/480276
今回は世界情勢を反映するかのように、ヨーロッパとアメリカ、中国、そして日本の立ち位置なども気になったわけだが、レポートでは十分に触れることのできなかった「ワコールヨーロッパ」という会社とその展開商品について、もう少し紹介したい。同社はいうまでもなく、日本のインナーアパレルを長年牽引しているワコールのヨーロッパにおける現地法人だ。
ワコールという企業は、1970年代はアジア市場、1980年代はアメリカ市場、1990年代はヨーロッパ市場という、創立者の世界市場進出構想に基づき、ほぼ計画通りに進めてきた。1990年にフランスの現地法人、ワコールフランスを設立。「パリ国際ランジェリー展」の主催者からの長年のラブコールを経て、同展には2008年から出展。以降、同展主要メンバーとしての出展を続けている。2012年にはイギリス企業を買収したことにより、ワコールヨーロッパの本社はイギリスに置いているが(フランスには販売会社)、同社5ブランド(Wacoal,Fantasie,Freya,Elomi,Goddess)のうち、もともと「ワコール」ブランドでフランス市場からスタートしていることもあって、ヨーロッパで「ワコール」というとフランスブランドのイメージが強い。パリの主要百貨店に行くと、フランスの老舗ランジェリーブランドと並んで、「ワコール」ブランドの売場が定着している。
日本の扇子をモチーフにした“SENSU LACE”今年の「パリ国際ランジェリー展」においても、同社は大きなブースを構え、ワコールフランスのスタート時から勤続35年のソフィ―さん(現在はマーケティング責任者)が迎えてくれて、コレクションの説明をしてくれた。
2025インティモアワードの盾を持つソフィーさんもともとヨーロッパ市場におけるシェイプウエア(体型補整アイテム)のパイオニア的な役割を果たした「ワコール」は、昨年はシェイプウエアのリニューアル(Shape Revolution)によって打ち出しを強化していたが、今年は特に新製品は出さずに定番で地道なビジネスを続けている。市場評価は既に定着しており、今年もランジェリー業界誌『インティモ』によるシェイプウエア部門のアワード(フランス国内主要ブティック100店による投票)を受賞した。
クリエイティブなブランドを集めた《EXPOSED》エリアには、「ワコール」シェイプウエアだけを集めたブースを展開
同社の中でもフランス市場で一番の売り上げを占める「ワコール」ブランドは、ワコールアメリカでの成功を活かした機能商品を多く取り入れているが、同社としては今回はむしろ、アメリカ路線より再びヨーロッパ路線を強化したいと、ヨーロッパらしいレースを使用したグループを新製品に加えていた。
とはいえ、他社にない機能商品があるのも同ブランドの強みで、背中をすっきり見せる“BACK APPEAL”グループ(フロントホック)、さらに乳癌術後用に開発されたノンワイヤーブラレット“B-SMOOTH”も注目される。
一方、ヨーロッパ市場全体として一番の売り上げを誇るのが、もともとイギリスブランドで、大きなサイズを特徴とする「ELOMI(エロミ)」。トレンドを反映した若々しいデザインの魅力と確かな機能性、しかも中心価格がブラ&ショーツセットで100ユーロという手ごろな価格帯でファンを増やし、右肩上がりの伸長を続けている。
ヨーロッパの「ワコール」も「エロミ」も日本国内の店舗では販売されていないために一般には馴染はないかもしれないが、ここには日本、アメリカ、ヨーロッパの強みと技が集約されている。