武田 尚子

2019 31 Oct

マドモアゼルプリヴェ展で感じたシャネルのモダン

品川の天王洲で開催されている「マドモアゼルプリヴェ展」(世界の都市を巡回)を観に行った。

これに関しては同サイトが充実しているし、多くのネットメディアが発信しているので、詳しい説明はそちらにお任せするが、私が痛感したのはシャネルのモダニティ(現代性)だ。

 

まず入場は無料だが、事前のネット予約(LINEのアプリをインストール)が必要。30分刻みの時間帯なので即日は難しいかと思ったが、その日に思い立ってすぐ予約を入れることができた。

久しぶりの天王洲は、海外のおしゃれなベイエリアのように変貌していて、会場にはファッションビジネスに関わっているであろう人々から、学生、シャネル好きのおば様たち、また海外からの観光客まで、多彩な客層が集まってきていた。

親切な若いスタッフの丁寧な誘導によってスムーズに入場した後は、モバイルを活用しながら各自がその空間や作品を楽しむスタイル。この体験型こそが実にモダンである。

近年のオートクチュール作品を中心に、出展数は多くはなかったが、5つのカラーストーリーに沿った会場構成の中を、シャネルのプライベートルームに誘うストーリーが作られており、それがモバイルから流れてくる説明や視覚効果によって、何倍にも世界が広がるという仕掛けだ。

オートクチュールの展覧会だけに、それを支える刺しゅうなど職人芸のワークショップも同時に開かれていた。そういう参加型の企画もモダン。

 

そもそもシャネルのブランド草創期である1910~20年代において、シャネルが投げかけたものこそ「モダン」であった。コルセットからの解放を促進した、下着の素材であったベージュのジャージーをアウターウエアに使ったというようなエピソードはここではあえて触れないでおこう。

近くの別会場で、カールラガーフェルド監督によるショートフィルムが上映されていたが、その中でもドーヴィルで帽子をはじめとするブティックを店を開いた時のエピソードを基にしたモノクロ映画(2013年)が強く印象に残った。なぜかこの映画についてはインターネットを探してもあまり紹介されていない。

若き日のシャネル自身を演じたキーラナイトレイがいい。カールお気に入りでご指名したというだけあって、その男っぽく丹精な顔立ちがシャネルのイメージにぴったりだった。シャネル本人のタイプとはまた異なるが、シャネルが伝えたいであろう女性像を体現していた。

特に彼女が店で身に着けている衣裳に興味津々。ボウタイのブラウスにひざ丈のスカート、その上にローブスタイルのゆったりしたカーディガンというスタイルは、そのまま今、真似したいほどだ。

お金持ちが集まる保養地のドーヴィルで、店にやってくる女性たちがこれまた個性的。

コルセット着用の古めかしいドレス姿もあれば、夫の男物ジャケットを羽織っている女性もいる。

そのしぐさや物言いも含めて、フランスらしい気取りや粋に満ちていて、当時の時代性が伝わってきた。そして街行く女性たちがこう噂しているのだ。

「最近人気のあの店はとてもモダンなのよ」

 

今回の展覧会では、どちらかというと出展品そのものは「モダン」というよりシャネルの伝統にのっとったものであるが、展覧会の開催の仕方や見せ方が非常にモダンであった。

今の時代における「モダン」はより複合的になっている。

シャネルというブランドにとっては、改めて、カールラガーフェルド亡き後の新しい時代という意味合いも込められているであろう。

シャネル自身もこうしてブランドが続いていることをあの世で喜んでいるに違いない。